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MLBにあって日本にないもの。
「ラジオ文化」と名物アナの存在。 

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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posted2018/10/20 17:00

MLBにあって日本にないもの。「ラジオ文化」と名物アナの存在。<Number Web> photograph by AFLO

言葉の国アメリカでは、ベースボールも「どう語られるか」が大切だ。ボブ・ユッカーはその偉大な担い手の1人である。

必ず真似される有名なセリフ。

「口を開けば面白い」というイメージは、彼を全米中継のアナウンサーや、野球に関係のないトークショーの司会へと導く。そして、その特異なキャラクターはチャーリー・シーンやトム・べレンジャー主演の映画「メジャーリーグ」の「弱小球団(当時)クリーブランド・インディアンスのアル中アナウンサー役」抜擢にも繋がった。

 劇中、ノーコン投手のホームプレートから大きく外れた球を「Juuust a bit outside(ちょーっとばかし、外角に外れました)」と言うシーンは、今ではユッカーの物真似をする人が必ず口にするセリフになった。

 ちなみにこの映画のパート2では、とんねるずの石橋貴明さんが日本人選手タカ・タナカ役で出演している(映画公開が1994年春なので、野茂英雄のメジャー・デビューより約1年早かった)。

現役時代の自慢話もサービス満点。

 実際の中継でも面白いコメントを連発するのがユッカーさんで、たとえば現DeNA横浜ベイスターズの二軍投手コーチである大家友和投手が、ブルワーズ時代のある試合で2打数2安打4打点とベーブ・ルースや大谷翔平ばりに「投打二刀流」で活躍した時、こんなことを言ってリスナーを笑わせたこともある。

「なんてこった! トモがまた打点を挙げた! おや? 彼の仕事はクオリティ・ピッチング(先発して6回以上3失点以下)をすることじゃなかったかな? いやいや、そんなことはどうでもいい。彼のバットがチームに勝利を呼び込んでいるのは間違いない。私はこれから彼のことをトモ・ルースと呼ぶことにしよう!」

 こういうことを次から次へと言い続けている人だから、始球式前の会見でも、司会に「ボブは今夜、始球式をやります」と紹介されると、すかさず「俺が(やるの)?」と返し、満員になった会見場を沸かせる。何かと「ひとこと」言わないと済まない人なのだ。

 たとえば彼の現役時代の自慢話のひとつは、史上最年少の36歳で米野球殿堂入りした名投手、左腕サンディー・コーファックスからホームランを打ったことだった。

「理由はよく分からないが、私はサンディーをよく打った。唯一のホームランはドジャースタジアムでのこと。それ以来、私は彼に会うたびに謝るようになったんだ。もしも彼が殿堂入りを逃したらあの1本のせいだから、とね。彼はこう言うんだ。『それ、やめろってんだ。お前はいつも謝るけど、お願いだから、もう止めてくれ』ってね」

 相手を愉しませる「サービス精神」。だから、いつも話は長くなる。クレイグ・カウンセル監督はこう言って笑う。

「毎日、5分のショーを録音するために、僕らは毎日、20分は話している」

【次ページ】 「人を笑わせることが好きだし、私の仕事」

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