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MLBにあって日本にないもの。
「ラジオ文化」と名物アナの存在。

posted2018/10/20 17:00

 
MLBにあって日本にないもの。「ラジオ文化」と名物アナの存在。<Number Web> photograph by AFLO

言葉の国アメリカでは、ベースボールも「どう語られるか」が大切だ。ボブ・ユッカーはその偉大な担い手の1人である。

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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 メジャーリーグにあって、日本プロ野球にないものの1つが「ラジオ文化」だと思う。

 日本のプロ野球でも実況中継はやっているが、その規模は比較にならない。メジャーリーグには、各球団にほとんど全試合を中継するラジオのアナウンサーや解説者が存在するし、彼らは全国中継ではなく地元のローカル局で働いている。

 それゆえに地元のファンから「この球団、この町ではこのアナウンサー」と認知されている。彼らの「声」や「語り口」はラジオを通して地元の野球ファンに親しまれ、球団の慈善活動にも頻繁に招待されては司会として参加しているので、地元の名士のような存在でもある。

 自然と彼らに対する球団関係者や選手、ファンやメディアのリスペクトは強くなり、中には球団や地元の町といったローカルな枠を超えて、元ドジャース実況アナのビン・スカリーやカブス実況アナの故ハリー・ケリー氏のように全米レベルでもよく知られた存在となる人もいる。

 ミルウォーキー・ブルワーズの実況中継を長年務めるボブ・ユッカーも、その1人だ。

 10月12日、地元で開幕したミルウォーキー・ブルワーズ対ロサンゼルス・ドジャースのナ・リーグ優勝決定シリーズ第1戦の試合前、そのユッカーが始球式を行った。

アナウンサーとして殿堂入り。

 今年84歳のユッカーは、当時ミルウォーキーに本拠地を置いていたブレーブスをはじめ数球団で捕手としてプレーした元メジャーリーガーだ。メジャー歴6年で297試合に出場し、生涯打率2割ちょうどで通算14本塁打、74打点という成績を残している。

 その現役時代について、2003年に野球放送関係者の最高の栄誉であるフォード・C・フリック賞を受賞して米野球殿堂入りした際のスピーチで、彼自身がこう言っている。

「現役時代の私が打てなかったのは誰でも知ってることでしょうが、息子もリトルリーグの試合で打てず、誇りに思ったものですよ」

 家族を含め、聴いている者を笑わせる語り口は軽妙で、同じ殿堂入りスピーチの際には、1967年にナ・リーグ最多のパスボール(出場76試合で27個)を記録したことをこんな風に話している。

 ユッカーの名誉のために記しておくと、ブレーブス時代は「行方知れずの魔球」であるナックルボールの使い手フィル・ニークロ投手の相棒だったので、誰が受けてもパスボールは多かった。

「毎日試合に出てないのにリーグ最多ですからね。お陰でナックルボールを捕るコツを学びました。つまりボールを放っておいて、最後に拾い上げるってことです」

【次ページ】 必ず真似される有名なセリフ。

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ボブ・ユッカー

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