メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
MLBにあって日本にないもの。
「ラジオ文化」と名物アナの存在。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2018/10/20 17:00
言葉の国アメリカでは、ベースボールも「どう語られるか」が大切だ。ボブ・ユッカーはその偉大な担い手の1人である。
「人を笑わせることが好きだし、私の仕事」
メジャーリーグで活躍する他の多くのアナウンサー同様、ユッカーは監督や選手たちと多くの時間を過ごす。デビュー当時は同じぐらいの年齢の選手たち、それがやがて子供のような年齢になり、今では孫と同じぐらいの選手たちになった。
48歳のカウンセル監督でさえも世代ギャップは甚だしいのだが、それゆえに「お父さん」、「お爺さん」的な存在になっている。
「彼らは私のことを元選手だと知っているし、(選手との)関係はそれを基にしている。10連敗するような時も、同じ側にいたってことだ。そんな時にメディアと話すのは嬉しくないことだが、しなきゃいけない。そして、それがどういう風なのかを私は知っている。物事を面白く語る私の仕事を彼らは見ているし、それが私のキャリアなんだ」
コロラド遠征でロッキーズ戦を中継した際、彼はこんなことをラジオで話している。
「呉昇桓がマウンドに上がりました。おっと、通訳を介してコーチと何やら話し合い……通訳がベンチに引き揚げます。彼は素晴らしい救援投手です。もしも私が打者だったら、対戦するのは通訳にしたいところです。そしたら、呉はダッグアウトに引っ込みますからね」
「なんでそんな発想になるのかは、自分でもよく分からんのだよ」とユッカーは笑う。
「私は人を笑わせることが好きだし、それが私の仕事なんだ」
ワールドシリーズの実況は「ノー」。
それでも彼はまず、「何よりもベースボールなんだ」と言う。
「放送関係の人々と一緒にいるより、野球関係の人々と一緒にいることの方が長いんだ。若い頃は打撃投手もよくやったし、それから着替えて放送室に入ったものさ。試合前も、試合中も試合後も選手たちと一緒に過ごす時間の方が長かった。だから、彼らだけではなく彼らの家族も良く知ってるし、彼らの子供や孫まで良く知っている。だから、世代ギャップなんてものは私にはないんだよ」
ブルワーズには野茂英雄を筆頭に、前出の大家友和や2011年のナ・リーグ優勝決定シリーズに進出した際に活躍した斎藤隆(現パドレスGM補佐役)、青木宣親(現東京ヤクルト)ら日本人が多く所属していたこともあり、我々日本人メディアにとってもユッカーはなじみ深い存在となっている。そして、その度に感じるのは、彼が今でも「野球人」であるということだ。
件の始球式前の会見終盤、こんな質問が飛んだ。
――2年前、インディアンスがワールドシリーズに進出した時、ネット上ではファンたちの間であなたこそ実況中継すべきだという動きが起きました。今、ブルワーズではそのチャンスはあると思いますが、(実況を)したいと思いますか?
「それは映画『メジャーリーグ』があったからだね……あのパート3は酷かったな……それにも私は出演してるんだけどね(笑)。まあ、とにかく『メジャーリーグ』のお陰で、クリーブランドとカブスのワールドシリーズのために、彼ら(中継テレビ局)が電話してきたんだ……(答えは)ノーだよ」
その理由こそ、彼がアナウンサーとなった今も「野球人」であり続けている証だった。