猛牛のささやきBACK NUMBER
山岡泰輔が見つけた「1つ上のギア」。
オリックスのエースにまた一歩前進。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2018/09/07 07:00
いかにプロでも、体験して分かることはある。山岡泰輔は中継ぎの経験を先発の能力に見事に転化して見せた。
山崎「考える時間はないほうがいい」
今季前半と今の山岡を比べて、一番大きな違いは“テンポ”だと山崎勝己は言う。前半戦は援護に恵まれず、1点も失いたくないという心理が働いたせいか、1球1球考えすぎて間が長くなっていたが、今はポンポンと小気味よく投げ込む。山崎はこう続けた。
「前半戦の頃は、こちらがテンポを速くしようとしても、あいつが全然乗ってこなかった。あいつの準備が終わるまで(サインを出すのを)待っていました。でも今はもう、あいつが先にサインを待つようになっている。向こうがもうこっちを見ているから、パパッと出せるんです。
テンポが遅くなって時間ができると、バッターも考えるし、ピッチャーも考えるし、キャッチャーも考える。そうなると3人同じ答えが出やすくなっちゃうんじゃないですかね。だから考える時間はないほうがいいと思うんです」
自分の中にあった一段階上の「ギア」。
もうひとつ、山岡が中継ぎをする中で得たものがある。それは「中継ぎでしか出せない力の出し方」だった。
「先発ピッチャーにはどこかに、長い回を投げなきゃとか、7回1失点や6回2失点で上出来という意識がある。それが癖になっているから、『ここは1点を取られても、1アウトをもらおう』という場面も出てくる。でも中継ぎはそんなことできないですからね」
先発の時には知らず知らずのうちに働いていたリミッターが、中継ぎの時には取り払われ、自分の中に今まで気づかなかった一段階上のギアがあることに気づいた。
「あの時は中継ぎだったからとか、今は先発だからというふうに頭の切り替えをしてしまうと、それを出せなくなるので、あの時の状態を体のどこかに覚えさせておいて、それを先発の時にもたまに出せるようにすれば……。
それができているのが、菅野(智之)さんだったり、則本(昂大)さんだったり、そういう人たちなんじゃないかなと思います。先発の投げ方をしながら、ピンチの時には中継ぎの投げ方というのをすれば、うまく0に抑えられるんじゃないか。僕はまだ探り探りですけどね」