燕番記者の取材メモBACK NUMBER
38歳で奮闘するヤクルト石川雅規。
今なお先発を任せられる理由とは。
text by
浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto
photograph byKyodo News
posted2018/09/05 07:00
円熟味のピッチングで相手打者を幻惑する石川雅規。ヤクルト投手陣にとって最高の見本だ。
小柄な体と磨き続けてきた技術。
「何とかチームが勝ったので良かったです。(捕手)井野のおかげです。理想通りの投球でした。自分のことをそんなに信じていなかったから、いつかは安打を打たれるだろうって思っていました。厳しい場面で(2番手の)近藤が最少失点で抑えてくれた。自分に勝ちがつけばうれしいけど、競った試合をとれたのは良かった。どこでもこういう投球をしたい。こういう投球をしていると、勝つチャンスが大きくなるので」
大記録達成だけでなく、勝ち星も逃した悔しさは当然、あったはずだ。それよりも、チームが接戦をものにした喜びが勝っていた。降板時の硬い表情は、記録を逃したことではなく、ピンチを招いたまま、後輩投手に後を託した自分が許せなかったから。チーム最年長の38歳というだけではなく、石川がヤクルトの精神的支柱と頼られる理由は、こういうところにある。
身長167cm、73kgと体格は恵まれているとはいえない。直球も130キロ台と速くはない。だが、石川には磨き続けてきた技術がある。左腕からスライダー、カットボール、シュート、2種類のシンカー、カーブ、チェンジアップと多彩な変化球を操る。8月5日の阪神戦(京セラドーム大阪)で通算1500奪三振を達成するなど、緩急をつけた投球で空振りも奪える投球術で、ヤクルト投手陣の屋台骨を支えてきた。
柔和な表情の下に秘めた闘争心。
マウンドを降りると笑顔が絶えず、周囲には自然と後輩たちが集まる。取材陣と接する態度も同じ。抑えた時も、打たれた時も、自分の言葉で丁寧に試合を振り返る。悔しさ、反省、課題克服への強い意志、感情も豊かに表現する。
だが、最も魅力的なのは、柔和な表情の下に秘めた「闘争心」にある。小さな体で11度も2ケタ勝利をマークするなど、通算162勝を積み上げてきた。これは投球術だけで成し遂げられる数字ではない。入団時は二軍監督で、プロ入り後の姿を見続けてきた小川淳司監督は、石川の長所をこう説明する。
「普段は温厚なのに、試合になったときのスイッチの入り方がすごい。表情もグッとなる。カッとなることもあるけど、それだけ試合に執着している証拠。本当に負けん気が強い。だから、あの体であれだけ勝てるんだと思いますね」