燕番記者の取材メモBACK NUMBER
38歳で奮闘するヤクルト石川雅規。
今なお先発を任せられる理由とは。
posted2018/09/05 07:00
text by
浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto
photograph by
Kyodo News
新聞記者という仕事の醍醐味の1つに、大記録達成の瞬間に立ち会えるということがある。今年は7月9日の巨人戦で、ヤクルト山田哲人内野手のサイクル安打達成を取材する機会に恵まれた。記者として初めての、サイクル安打達成者の取材。思い出すと少々気恥ずかしいが、年がいもなくどこか高揚している自分がいた。
1カ月後。再び、気持ちがそわそわすることになるとは思わなかった。場所はナゴヤドーム。石川雅規投手が中日相手に7回まで完全試合の快投を演じた。ストライクゾーンの高低、左右に7球種を自在に駆使し、一塁すら踏ませなかった。
「記者あるある」の1つとして「過去の記録達成者を調べはじめると、記録への挑戦が途切れる」というのがある。本当かどうかは分からない。5回を終えても、記録を調べるのを我慢した。さすがに6回を終えると、試合後取材の準備をせざるを得なくなった。
今日の石川なら、きっとやり遂げるだろう。そう確信しつつ「達成なら球団では完全試合は4人目、無安打無得点試合なら'06年5月25日楽天戦のガトームソン以来6人目」と、スコアブックの隅に記した。7回も3者凡退。「いける」。だれもがそう思いはじめていた。
中日ファンからも拍手を送られた。
挑戦の終焉は、突然やってきた。8回無死、ビシエドにこの日の78球目をバットの芯で捕らえられた。打球はあっという間に左中間を割った。大記録達成へのカウントダウンが、あとアウト6つで止まった。
中日ファンからは大歓声が起き、ヤクルトファンからはため息がもれた。直後のアルモンテにも安打を許すと、石川は降板を告げられた。ヤクルトファンだけでなく、中日ファンも奮闘をたたえ、石川に温かい拍手を惜しみなく送った。
石川の表情は険しかった。悔しさをグッとのみ込み、グラブをはめたまま三塁側ベンチへ歩を進めた。ベンチ前で出迎えた仲間を前にしても、表情が緩むことはなかった。8回途中2安打1失点で降板。リリーフ陣に託した自分が、腹立たしかった。だが、9回に逆転してチームが2連勝を決めたことで、試合後、表情には穏やかさが戻っていた。