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“怪物”を眼の前で見た審判の証言。
松坂、桑田、そして江川の違いとは?
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/08/21 07:00
“平成の怪物”松坂大輔、1998年の決勝戦での勇姿――あれから20年後の2018年も、まだファンに夢を見させてくれる存在だ。
「桑田くんの審判の時は『重い』」
ところが、その十数年前、マスク越しに相対したPL学園のエース桑田は、松坂よりも制球力があったのだが、ジャッジする側が心配になるくらいの繊細さを感じさせたという。
「桑田くんの雰囲気というのは、ものすごく硬いんです。少しでも判定を間違えて、ストライクをボールと言ってしまったら、この投手はガタガタになってしまうんじゃないか。そう思わせるような雰囲気がありました。だから桑田くんの審判をやっている時というのは、重いんです」
そして、桑田と同じ硬質の空気を醸しながら、さらにそこに駆け引きをプラスしてきたのが、あの江川だったという。
江川は審判を心理的に操作した!?
清水さんが江川を目撃したのは、東京六大学で球審をした時のこと。作新学院から法政大へやってきた怪物には、裁く側を不安にさせるような雰囲気さえあったという。
「江川くんの投球というのは、1球目、意図的にボールを1つ分、アウトコースに外すんです。時速150キロくらいで。審判は外れているから『ボール』と言いますよね。普通のピッチャーは『ああ、ボールだったか』という顔をするんだけど、江川くんは『えっ?』という顔をする。そうすると、こっちはドキッとするんですよ。ボールの直径は7センチ、それが150キロで飛んでくるんですから、本当はストライクだったのかな、と少しだけ不安になるんです。
それで江川くんが次、何をするかというと、ボール半分、中へ入れてくるんですよ。厳密にはまだ3センチ外れているんですが、これを『ストライク』と言ってしまうんです。
審判は練習会やオープン戦の気楽な気持ちでやっている時は、3センチ外れているのは簡単にわかるんです。でも、江川くんのような投手に『えっ?』という顔をされて心がざわざわしている時はそうはいかないんです。
そうやって内外角、ボール半分ずつストライクゾーンが広がれば、結果的にボール1個分を得するわけです。だから、打者からは『清水さん、なんか江川の時、ストライク広いんじゃないですか』と言われたこともあります。そうやって、みんなやられちゃう。すごいコントロールを持っている上に大人と駆け引きするんですよ、彼は。だから憎たらしい(笑)」