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“怪物”を眼の前で見た審判の証言。
松坂、桑田、そして江川の違いとは?
posted2018/08/21 07:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Takuya Sugiyama
野球はピッチャーがボールを投げなければ始まらない。マウンドに投手がいて、初めて相対する打者たちがいる。そこからドラマが動きだす。たとえ、それが歓喜であっても、悲劇であっても、ゲームの主役である。
とりわけ甲子園のマウンドにはエースがよく似合う。だから、100回の歴史の中で「怪物」と呼ばれる投手たちの記憶はひときわ深く刻まれているのだろう。
Number959号「夏の甲子園 100人のマウンド」では、そんな高校野球史に残る投手たちの足跡を求めて歩いた。その中で、怪物投手にまつわる興味深いエピソードを聞いた。
松坂大輔、桑田真澄、そして江川卓、それぞれの怪物たちの差異についてである。
ノーヒットノーランの松坂は明るかった。
声の主は清水幹裕さん。高校野球などアマチュア野球の審判員を41年間務めた人物だ。
1998年、あの松坂大輔を擁する横浜高校が優勝した夏の甲子園では、準決勝・明徳義塾戦で球審を務め、ノーヒットノーランという奇跡のような快挙が達成された決勝の京都成章戦では一塁の塁審だった。
そんな歴史の目撃者は、審判の眼から見た、松坂と桑田の違いをこう語った。
「松坂くんはね、雰囲気が明るいんですよ。コントロールはアバウトだから判定なんてあまり気にしていない。少々のことをやったってへっちゃらだよっていう感じがある。こっちも気楽にやれるんです。それと対極にあるのが桑田くんでした」
あの1998年夏の準決勝・明徳義塾戦。
8回表まで6点リードされていた横浜高校は、劇的な逆転サヨナラ勝ちを収める。前日に250球を投げ、この日は登板しないはずだった松坂が腕に巻いたテーピングをビリビリと剥がしてマウンドに上がったのは、まだ2点ビハインドで迎えた9回のことだった。
その時、異様な雰囲気の中で投げている松坂から清水さんが受けた印象は「安心感」だったという。