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王貞治会長は今も普及の最前線に。
遊びと学びが共存する野球教室。 

text by

田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byWCBF

posted2018/08/17 08:00

王貞治会長は今も普及の最前線に。遊びと学びが共存する野球教室。<Number Web> photograph by WCBF

8月に松江市で開催された第28回世界少年野球大会松江大会の野球教室で、身振り手振りを交えて子どもたちを指導する王貞治氏。

教えるプロが子どもたちを……。

 最初の集合。子どもたちは列を成すが、「整列」と呼べるほどきちんと並んでいるわけではない。しかし、それを叱り飛ばす講師はいない。その中でも話はきちんと聞いている。

 その証拠に、手短な挨拶が終わるとテンションを上げていこうと合言葉をみんなで絶叫するのだが、みんな揃って力いっぱいに腹から声を振り絞っていた。それは英語だった。

 如何にも自由な雰囲気だが、グループ行動になればきちんとそれぞれの持ち場へと並んで移動する。

 投げる、打つ、走るといった基本メニュー。それ自体はホークスで行われる野球教室と大差はないが、プロ野球選手が出てくると子どもたちは緊張するし、教える側も不慣れなためかやや一方通行になりがちだ。もしくは子どもたちがはしゃぎ過ぎて、野球教室というよりは交流会になってしまう。

 一方でWCBFのコーチたちはまさしく教えるプロだ。自ら手本も示すし、いいタイミングで子どもたちに声を上げさせる。それが絶妙に上手い。一般的な練習メニューはもちろん、挟殺プレーや捕手のキャッチングといった野球のかなり専門的な動きも組み込まれている。

学びと遊びが上手く共存できている。

 また、特に目を引いたのがスライディングの練習だ。ビニールマットの上に水をホースでまき続け、子どもたちはその上を滑っていく。まるでレジャー施設のプールの遊具のような仕掛けになっており、子どもたちは大はしゃぎだ。

 なるほど。学びと遊びが上手く共存できているのだ。

 日本の教育システムでは、学びと遊びの間にどうしても線を引きたがる。

 また、野球をはじめとしたスポーツに於いては、汗と涙の先にこそ喜びを得られるといった思想を持つ指導者も少なくない。だから忍耐や我慢、痛みも正当化しがちだ。それは年配者か、もしくはある程度上のカテゴリを経験したかつての競技者の経験則が起因していることが多い。

 世界ナンバーワンの868本の本塁打を放った王さんの球歴だって、精進だとか、血の滲む努力といった重いイメージがつきまとう。

 その王さんが提唱する野球教室は、まるで真逆の世界だった。

【次ページ】 「野球を通じて相手を受け入れる」

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