野球のぼせもんBACK NUMBER
王貞治会長は今も普及の最前線に。
遊びと学びが共存する野球教室。
posted2018/08/17 08:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
WCBF
王貞治・ホークス球団会長は現在78歳。監督を勇退したのが‘08年だったので、ユニフォームを脱いでもう10年になる。
今年2月、宮崎キャンプ中にこんなシーンがあった。筆者が紅白戦を一塁側カメラマンエリアから撮影していた時のこと。試合中盤だったか、突如周りが一斉に三塁側ベンチにレンズを向け始めた。こちらはカメラに関してまるっきり素人である。何事か分からずとも、とりあえず“プロ”の動きを真似るのが手っ取り早いというものだ。
鳥肌が立った。
なんと、ダグアウトのホーム寄りの端っこで王さんが腕組みをして仁王立ちしているではないか。ユニフォーム姿ではないものの、チームロゴの入ったジャージを着ており球団帽もきちんと着用している。グラウンドを見つめる眼光は鋭かった。
その立ち振る舞いは「王監督」そのものだった。
三塁側に陣取る紅組のバッターが快音を響かせれば「よし、いいぞ」と野太い声を上げて拍手で称える。左手が上。そして天に向けた右の掌を何度かポンポンと叩く。それも監督時代と変わらなかった。
「野球とはときめきだね」
かつて長嶋茂雄氏は「野球とは」と訊かれた時、「人生そのものだ」と答えた。
では、王さんにとって「野球とは」――? 過去にインタビューをしたものから引用する。
「ときめきだね。ゴルフだとか他のことは飽きてしまったり、感動しなくなっちゃったりして、もういいな、少し離れてみようと思ったりする。だけど、野球は違う。何度やっても、同じ試合はないんです。一球一球の状況の変化に、生きてる、戦ってる、という実感がある。
どれだけ年数やっていても、常に新鮮。そこには新たなる喜びも悔しさもある。『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』と頭をひねる。いわゆるマンネリとか、飽きるとかいう部分は生まれにくい世界じゃないかな。離れがたいものだよね」
ずっと野球ひと筋で生きてきた。「今の体力では現場(監督)は無理でしょう。でも、野球に対する熱い思いは年とともにより強くなっています」。今なお高まる胸の情熱に、王さんは常々「野球に恩返しを」という言葉を用いる。