マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
横浜高校の万波中正がすごいぞ。
打てない球を追わなくなった大砲。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2018/08/03 07:00
以前からパワーは世代屈指と言われていた万波中正が、正確性までも身につけた。甲子園が楽しみだ。
勝つ投手は「うなずきマン」じゃない。
みちのく岩手に始まって、青森、宮城、岡山、広島、長野、群馬、東京、神奈川……、全国各地の予選を巡りながら、勝ち上がっていくチームとそうじゃないチームとの違いを確かめる機会が何度もあった。
勝ち上がっていくチームの投手は、決して「うなずきマン」じゃない。
捕手のサインにも遠慮なく否定して、自分の目と感性で打者と場面の“匂い”とを確かめ、自分の意志で球種を決めて投げる。
勝ち上がっていくチームの打者たちは、決して「ベンチ依存症」じゃない。
試合開始のサイレンが鳴っている中、ベンチのサインをのぞき込んでいるような打者はいない。
「ここでサインはないな」
そう考えたら、ジッと投手の様子に視線を定めて集中するか、ベンチを見ても、チラッと目をやるだけで、サインがないことを確かめると、サッと視線を投手に移す。ベンチと勝負しているような打者は1人もいない。
勝ち上がっていくチームの走者には、外野の間を破った打球が見えているのに、ベースコーチの判断をほしがっているような走者はいない。自分の目で打球のゆくえを見定め、走っている自分の足のコンディションや打球を追っている相手チームの選手たちの肩やカットの位置を確かめて、行く、行かないを判断する。彼らは、打球を背にする位置でも、チラッと振り向いて、自分の目で確かめにいく。
ちょっとした心がけが土壇場で効くのが野球。
勝ち上がっていくチームの二遊間は、シートノックから滑り込んでくる走者を想定して、スライディングを避けるような動きで一塁送球をする。
実戦でダブルプレーがなかなか成立しない二遊間は、シートノックの時に、走者のスライディングゾーンを踏んで一塁に投げる。そのほうが投げやすいからそうするのだろうが、そこで投げたら、滑って来る走者を踏んづけながら投げることになるだろう。
ほんのちょっとした心がけが、土壇場での「アウト1つ」に直結する。それが、野球だ。
さあ、まもなく本番だ。
万波中正の“本番”は、果たしてどうなるのか。今のままのバッティングが実践できれば、間違いなくやれる。私はそう考えている。
そして、すべての3年生球児にとって、最高の「高校野球の卒業式」になりますように。