甲子園の風BACK NUMBER
小山台高校野球班に受け継がれる志。
大事な試合に現れる「赤とんぼ」。
posted2018/08/03 07:30
text by
神津伸子Nobuko Kozu
photograph by
NIKKAN SPORTS
赤とんぼは、その日も都立小山台高校野球班と共にいた。
7月29日、神宮球場では東東京大会決勝戦、二松学舎大付対小山台の熱戦が繰り広げられていた。6-3で二松学舎が甲子園に駒を進めた。その試合開始直後、バックネット裏観客席の上を、季節外れの赤とんぼが何度も何度も行き来していた。
気がついた小山台OBが何人か、その赤とんぼを指さしていた。
同校野球班の重要な局面に、赤とんぼは必ず現れる。
赤とんぼは2006年6月、突然の不幸なエレベーター事故で帰らぬ人となった野球班のレギュラー、市川大輔君(ひろすけ・当時高校2年生)の魂を背負っていると、同校関係者たちは信じて疑わない――。
複数の職員が目撃した赤とんぼ。
29日、三塁側の小山台内野応援席は早々と入場札止めになった。入場者数は2万6000人を越えた。
試合開始は10時だったが、「9時20分に到着したのに内野席は入れず、外野席もかなりの混雑だったのでやむなく相手側の外野席で応援した」という人もいた。揃いのTシャツ、黄色いメガホンで応援席は膨れ上がり、試合開始前から興奮状態にあった。
前日の台風の影響で、プレーボールは予定より20分遅れた。筆者がバックネット裏で、応援に来ていた同校OBに話を聞いていた時のことだ。
試合開始間もなく、赤とんぼが私たちの頭上で舞った。最初に気づいたのは話をしていたOB。彼も、今年赤とんぼを見たのは初めてだという。
赤とんぼの話を聞いていたところだったので私たちの願望が見せた幻かと思い、同校の大田原弘幸校長に確認した。
「複数の職員が赤とんぼを目撃しています。市川君が応援に来ていると、話していました」
市川君は、たしかに皆と一緒に神宮に来ていたのだ。