マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
横浜高校の万波中正がすごいぞ。
打てない球を追わなくなった大砲。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2018/08/03 07:00
以前からパワーは世代屈指と言われていた万波中正が、正確性までも身につけた。甲子園が楽しみだ。
おい、どこ飛んだ今の……?
一瞬思い出したのが、1990年代、ホームランメーカーとして怖れられた横浜ベイスターズのグレン・ブラッグスだ。
コンゴ人の父を持ち、190cm87kgで長い手足の万波中正。決して力任せに振り回さないコンパクトなスイングスタイル。なのに、横浜スタジアムの場外にまで持っていけそうな雄大な長打力。スイングの最後で、自らの背中を叩くほどのスイングスピードと柔軟性。
第2打席、まったく同じスイングスタイルで、今度は低めの速球を巻き込んだ打球は、やはりライナー性の軌道でレフトスタンド上段にたたき込まれたから驚いた。
おい、どこ飛んだ今の……?
横の席の、話の内容から元・高校球児だったらしい2人連れは、打球を追いきれなかった。
変わっちゃったよ、万波……。
4月の終わりごろ、春の県大会までは、打てるはずのないボールを一生懸命追いかけていた。
それがバットに当たらないボールを追いかけなくなって、代わりに、自分のストライクゾーンで待てるようになった。それも、2ストライクからでも悠然と待ち構えられるようになった。
ちょっとやそっとの変わりようじゃない。「万波B」が「万波A」になったほどの変身。
4打席目、外寄りベルトの高さの速球を今度はレフトフェンス直撃の三塁打にした時に至っては、もはや「お見事! まいりました!」とただ唸るばかりだった。
これなら木のバットになっても大丈夫そう。
ムダに力まない、ムダに気負わない、ひるまない、カラ元気と虚勢で振り回さすこともない。
今のバッティングなら、木製バットになってもそんなに「カルチャーショック」はないだろう。頭が動かず、だからスイングの軸がブレることもなく、正確なミートとよどみない全身の回転で、気分よさそうに打球を飛ばしている。
これなら、今は、野球が楽しくて仕方ないだろう。
何が理由で、これだけ劇的な化学変化が生まれたのかはわからない。しかし間違いなく、万波本人の努力とそれを導いた者の大きな骨折りがあったはず。最後の夏を控えた短い時間の中で、ここまでの“革命”をやってのけた両者に、心から敬意を表したい。