錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、松岡修造以来のベスト8!
ウィンブルドンで似る2人の言葉。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2018/07/10 17:00
グルビス戦に勝利した瞬間、大きくガッツポーズした錦織圭。その表情には8強進出への感慨深さが感じられた。
「松岡はもう潮時」という風潮だった。
「松岡はもう潮時だと書いた記者のことをどう思いますか」というような内容の質問だった。恐らく聞いた本人が、その記者だったはずだ。
当時27歳だった松岡さんは「当然のことです。僕が記者でもそう書きました」とまっすぐに答えた。'92年にキャリアハイの46位までいったものの、もう丸2年トップ100外に低迷していた中で到達したグランドスラム自己最高のベスト8だったのだ。
錦織は手首のケガで休んでいる間もランキングを40位以下に落とさなかったが、この間には、若い強烈なハードヒッターが次々と出現し、テニス界はさらに層が分厚くなっていた。
30代のグランドスラム出場者数が20数年前に比べると4倍にもなっている現在、27歳や28歳で「潮時」とはまだ言われないかもしれないが、右手首というデリケートな部位に不安を抱える錦織がまたトップに戻れる日が来るのかと疑う意見は当然あった。
錦織自身もそれを目にするなり耳に入るなりしただろう。今はメディアだけでなくSNSなどで世論もダイレクトに目に入ってくる時代だ。クサりもするだろうし、反発心も生まれるに違いない。
「1回もつまんないと思ったことはない」
今大会の2回戦で対戦したバーナード・トミックなどは、そうした声に過剰に反応しすぎて、「テニスを好きだと思ったことなんかないし、だいたい平均して50パーセントくらいの力しか出していない。それに、もう飽きた」などと発言して世界中から非難を浴びた。これを受けて錦織は、18歳でウィンブルドンの予選からベスト8に進出したトミックの苦悩に少しの同情を寄せながらも、こう話した。
「もちろんメンタルが疲れることはありますけど、僕はテニスをやめたいとかつまんないとか思ったことは、1回もないですね。でもバーンアウトする気持ちはなんとなくわかるし、人それぞれかなと思います」
結局、メンタルの強さとは、そうしたピュアな原動力でもあるのだろうか。