錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、松岡修造以来のベスト8!
ウィンブルドンで似る2人の言葉。
posted2018/07/10 17:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Getty Images
そこは、23年前と同じ場所だった。錦織圭とは切っても切れない間柄の松岡修造さんが、日本男子として62年ぶりのウィンブルドン・ベスト8入りを果たした『13番コート』は、今日錦織がそれ以来のベスト8に到達した『2番コート』の場所にあった。
ウィンブルドンは過去10年の間に劇的に改築が進み、2009年、かつての13番コートが4000人収容のスタンドを持つ新2番コートとして生まれ変わったのだ。
松岡さんが歓喜のあまりラケットを放り投げてコートの中を走り回ったシーンは有名だが、元トップ10プレーヤーのエルネスツ・グルビスを4-6、7-6(5)、 7-6(10)、 6-1で退けた錦織はファミリーボックスを見上げて拳を強く握り、壁を1つ超えた喜びを静かに噛みしめた。
「優勝するためには安心してられない」
「優勝するためにはここからタフな戦いがまだ続くので、安心もしていられない」
苦手意識のあった芝、グランドスラムで唯一4回戦を突破したことがなかったウィンブルドンで、優勝まで見据えた言葉をさらっと言ったことに驚かされた。錦織のキャリアを冷静に考えてみれば決して不思議なことではないのだが、数日前には錦織自身も、「復帰してからなかなか思うようにプレーできなくて、『前だったらこういうプレーができてたのに』とかネガティブな考えをすることも多かった。正直、楽しくなかったり、難しいところもある」と復帰途上のもどかしさを語っていた。
まだ完全復活とまでは言いきれないこの段階で、また1つ壁を破ることを心から信じていた者は、錦織を支えるチーム以外にそう多くはなかっただろう。
ふと思い出したのが、23年前の松岡さんの記者会見だ。たったひとつだけ覚えている記者とのやり取りがある。