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レスリング・パワハラ問題の遠因か?
日本代表と所属チームの指導兼務。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2018/06/17 08:00
「おわびしたい」と公式に謝罪した栄和人氏だが、伊調馨選手周辺からは依然、納得いかないとの声が出ているという。
教え子に贔屓をしないと言い切れるか?
1つは代表選考だ。
明確な基準がない場合、教え子とそうでない選手とで扱いに差は出ないのか。力量や実績に明らかな違いがあれば悩むことはない。問題は、それほど差がない場合である。どの所属先とも等しい距離であれば冷静に見極められても、もし自ら教えているチームがあるとき、予断や個人的感情は含まれず、客観的な立場に徹することができるのか。
また、レスリングをはじめ多くの競技では、代表候補の選手も交えた合宿などで強化が行われる。
代表を狙う力のある選手たちが一堂に会して、力の底上げが図られる機会でもあるが、教え子と他の所属選手とに、公平に接することができるのかという問題も出てくる。
伊調選手へのパワーハラスメントは、伊調選手が栄氏のもとを離れたときから始まった。伊調選手に投げかける言葉だけではなく、練習場所の確保などにも影響をおよぼしたことが指摘されている。
20年以上前の競泳日本代表チームの場合。
代表と所属チームの指導を兼ねる際に起きる問題は、レスリングに限った話ではない。古くは、競泳日本代表チームの例がある。
20年以上前になるが、それぞれの所属チームのコーチが日本代表チームでの指導においても反目しあう状態が持ち込まれ、風通しが極めて悪い時期があった。所属先が違う選手には冷たい態度をとるコーチもいた、と当時の選手が語るほどだった。必然、国際大会での成績も伸びなかった。
そうした雰囲気が変わったのは、それまでシニアの代表の指導に携わったことのない高校水泳部の指導者であった教員を、日本代表ヘッドコーチに招いたときからだった。
本人も「なぜ自分が、と驚きました」という抜擢だったが、各クラブに頭を下げ、さらに代表合宿においてもコーチ同士のコミュニケーションを図るなど、垣根を壊すことに努めた。代表選考の基準も2000年代に入ってから明確にされ、そこに思惑が入る余地はない。