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サッカー界で国境が急速に無意味に。
「自国の代表監督」にこだわるな。
text by
杉山孝Takashi Sugiyama
photograph byTakashi Sugiyama
posted2018/05/15 07:00
モロッコは欧州との地理的距離も近く、欧州で生まれ育ったベナティアのような選手の存在もあり、急速に力をつけている。
地元出身者で固めるチュニジアは意固地?
アフリカの「地図」、いや「勢力図」は書き換えられたのだろうか。
今年のロシアW杯でアフリカ大陸からやって来る5チーム中、連続出場するのはナイジェリアだけである。お馴染みのカメルーンやガーナ、コートジボワールは予選で敗退した。
北アフリカ勢が2枠以上を占めるのは、20年ぶりとなる。モハメド・サラーが世界中で話題となるエジプトとともにロシアへ向かうのが、前述のモロッコと、チュニジアである。
チュニジアとモロッコは、ともに5度目のW杯となる。だが、選手たちの顔ぶれを見る限り、アプローチの仕方は随分異なるようだ。
同国代表の歴代得点ランクでトップ10に入っているユセフ・ムサクニなど、チュニジア代表の主力は地元出身で、国内リーグや中東を職場としている。率いるナビル・マールール監督も、首都チュニスの生まれだ。モロッコと同じく深い縁を持つフランス生まれの選手が少ないのは、まるで意固地であるかのように映る。
「欧州産」で力をつけるのが世界の主流。
だが、世界ではモロッコ風が主流である。
イランは日本と同じく、国内リーグで育った選手をヨーロッパに送り込む、優秀な輸出国である。ウインガーながら今季のオランダ・エールディビジで得点王に輝いたアリレザ・ジャハンバフシュの決定力には、所属するAZの監督も目を丸くする。
負傷からの復帰が待ち望まれているアシュカン・デジャガーは幼少期に移住したベルリンでサッカーを学んだし、前回W杯でイランの唯一の得点を挙げたレザ・グーチャンネジャドも、U-19までは幼くして移ったオランダの代表チームでプレーしていた選手だ。
日本と対戦するセネガルも、守備のキーマンであるカリドゥ・クリバリーをはじめ、「欧州産」の選手たちがチームに欠かせない存在となっている。
実際、モロッコの人々が代表チームをどう捉えているのかは分からない。だが、2026年W杯招致が成功したならば、アトラス・ライオンズ(代表チームの愛称)への期待はさらに高まるだろう。
たとえ実現しなくとも、カナダ、メキシコとの共催を狙い、大統領が得意のツイッターで「我々を応援しない国々を、どうして支援しなけりゃならんのか?」と力ずくでW杯をつかみ取ろうとけん制するアメリカに立ち向かうとなれば、俄然盛り上がりは増すはずだ。