メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
メジャーとステーキと赤ワイン。
衣笠祥雄さんの深い野球愛に触れて。
posted2018/04/27 10:30
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Kyodo News
『鉄人、逝く』――。
訃報を目にしたのは、取材で訪れていたシカゴのホテルだった。不意打ちをかけられたような衝撃を受けると同時に、定期的に野球の話を綴ってくださっていた衣笠さんからのメールがしばらく届いていないことに、その時初めて気付いた。自分の愚かさを嘆いた。
衣笠祥雄さんとの関わりは、TBSに在籍していた時代に野球解説者と記者としての関係で、一緒に仕事をさせていただいたのが始まりだ。もう29年も前の話になる。衣笠さんは駆け出しの記者に、野球の奥深さを優しい語り口でいつも教えてくれた。
衣笠さんが教えてくれた、プレーへの深い洞察。
印象深い最初の思い出がある。1989年、巨人担当記者1年目のことだった。
日付も対戦相手も誰のプレーであったかも記憶にないが、衣笠さんから教えていただいた話は今でもはっきりと覚えている。
その試合で一塁を守ったことのない野手が初めて一塁でスタメン起用された。一、二塁間へのゴロに対し、一塁手が深追いをしてしまった。二塁手が回りこみ捕球したものの、投手もベースカバーが遅れ内野安打。誰が見ても深追いした一塁手のミスであり、ベースカバーに入れなかった投手にも非はあると思った。
だが、衣笠さんの言葉は違った。
「今のプレーは一塁手として一番難しい判断を強いられるんですよ。一、二塁間のゴロに対し、どこまで追い、どこなら引き返すか。その判断です。
僕も捕手から一塁へ移った経験があるからわかるんです。今日の場合は選手を責めたらいけません。
投手だって最初は二ゴロだと思いますから。これは経験のない選手を公式戦でいきなり一塁で使った首脳陣の責任です」
深い言葉だった。今思えば、衣笠さんの言葉が心に残りすぎたから、誰のプレーであったかを忘れてしまったのだと感じる。