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桜庭和志手がける格闘技の「団体戦」!
『QUINTET』の新しさと無類の楽しさ。
posted2018/04/15 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Susumu Nagao
「これは世界初、人類初の試みです」
大会審判委員長、日本ブラジリアン柔術連盟会長でもある中井祐樹は、大会のオープニングで言った。
4月11日、両国国技館で開催されたのは『QUINTET.1』。桜庭和志が運営会社の代表を務める新イベントだ。
ルールは打撃なしのグラップリング。5人1チームの団体戦、4チームによるトーナメントで、なおかつ柔道で見られるような「抜き試合」形式である。中井の言うように初の試みだけに、中井も桜庭も事前取材では「やってみないと分からない」と口を揃えた。
試合場はリングでもケージでもなくレスリングマット。軽度の反則、消極的な闘いぶりには「指導」が与えられ、「指導」3回で失格となるルールは選手を「動かす」ためのものであり、レスリング出身の桜庭らしいとも言える。こうした独自性によって、日本では「打撃がないし寝技ばかりで分かりにくい」、「膠着が多い」と言われてきたグラップリングを“見るスポーツ”にできるか。それが今大会の大きなテーマだった。
所の芸術的関節技から立て続けに「一本」。
結論から言えば、今大会は初心者も含めた観客(ネット中継の視聴者)が充分に楽しめる内容だった。1回戦、決勝トータル17試合のうち、一本決着が10。「引き分けによる星の潰し合いが延々と続く」といった状況にはならなかった。指導の数も計3つで、審判の1人に聞いたところ「指導を出すタイミングがないくらい選手がアグレッシブだった」そうだ。
1回戦第1試合、桜庭率いるHALEO Dream Teamと石井慧を大将に据えたJUDO Dream Teamの対戦は、最初の2試合が引き分けだったものの中堅の所英男が腕十字を極め、会場のムードを一変させた。
後転するように倒れこみながら相手の足元に潜る、通称“イマナリロール”から、足関節をフェイントにした腕十字への連携だ。大胆かつ鮮やかな、所らしいサブミッション。ネット上では「クレイジー・スピニング・ブレイクダンス・アームバー」と呼ぶ者も現れた(本人は「ラッキーアームバー」と謙遜していたが)。
この1回戦は、HALEOチームの副将マルコス・ソウザがJUDOチームの大将・石井慧と引き分けて終了した。この試合は体重差が20kg以上あったため、試合時間は通常の8分ではなく4分。軽量のソウザが石井の攻撃を耐え切って、いわば“心中”したわけだ。クールなイメージの石井が躍起になって攻める姿も新鮮だった。