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名門ミランのエゴを束ねるカリスマ。
闘犬ガットゥーゾの揺るぎない強さ。
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph byGetty Images
posted2018/04/11 11:00
少しシルエットは丸くなったが、眼光と威圧感はむしろパワーを増している。ミラン悲願の復活はこの男が実現するかもしれない。
「すべての選手を巻き込む」
そう言われてみれば、現役時代のシメオネやコンテと同様に、ガットゥーゾもクオリティーの不足を仕事量や闘争心で補うタイプのMFだった。
さらに言えば、ガットゥーゾがミランと代表の両方で重用され続けたのは、そのどちらでもアンドレア・ピルロと補い合える関係にあったからでもあるだろう。ずば抜けて上手く、ずば抜けて視野が広かった司令塔のピルロと、誰よりも走り、誰よりも諦めが悪く、誰よりも戦い続けたガットゥーゾは、お互いがお互いを引き立て合い、クラブでも代表でも世界の頂点を極めているのだ。
「すべての選手を“巻き込もう”と試みている」
ミランの監督就任からまだ間もない頃にそう語っていたガットゥーゾは、異なる個性と個性をうまく組み合わせれば、どちらも輝き、世界一にもなれると身をもって知っている。
一定の水準さえクリアしていれば、どんな選手も活かせるという前提に立っているからこそ、ビンチェンツォ・モンテッラ前政権下では失格の烙印を押されかけていたハカン・チャルハノールや、出場機会自体が少なかったダビデ・カラブリアのように燻っていた人材も台頭してくる。ガットゥーゾの下ではベンチスタートの選手を含め、チーム内の競争が活性化しているように見受けられる。
まるで現役時代のガットゥーゾのような。
ガットゥーゾが監督になって4カ月が過ぎ、ミランのサッカーには力強さがみなぎっている。監督の資格(UEFAプロライセンス)を同じタイミングで取得した同期でもあるザンブロッタは、こう請け合う。
「(ガットゥーゾは)戦術的なレベルでも準備ができている」
あるいは、意識の変革が奏功しているのかもしれない。最近のミランの戦いぶりから受けるのは、形へのこだわりが消えたという印象だ。
ピッチ上の全員がゴールという目的に意識をフォーカスできているので、プレーに迷いがなく、その分だけ迫力が増しているとも解釈できる。
ひたむきにゴールを目指すサッカーは、勝敗とは無関係に観る者の心に響きうる。ガットゥーゾ率いるミランは、2006年W杯でおそらく極限を超えてからも走り続け、強烈なインパクトを残した現役時代のガットゥーゾのようなチームに徐々に変貌を遂げつつある。