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名門ミランのエゴを束ねるカリスマ。
闘犬ガットゥーゾの揺るぎない強さ。
posted2018/04/11 11:00
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph by
Getty Images
この人だけは敵に回せない。
目の前にはジェンナーロ・ガットゥーゾが座っていた。質問を発している間、私は凝視されていた。その眼光は「鋭い」を通り越し、容赦なく突き刺さってきた。
1時間に及ぼうかというインタビューの後、想像した。仮に私がサッカー選手で、対峙していたのがピッチの上だったとしたら……。ガットゥーゾだけは絶対、敵に回したくない。2007年12月の話だ。目の前の存在に、私は圧倒されていた。
クラブW杯のために来日していたガットゥーゾから感じ取れたのは、人としての傑出した“強さ”だった。その大会でクラブ世界一に輝くミランと、2006年W杯を制したイタリア代表の両方で、このMFが主力に君臨していた理由の一端を垣間見た気がした。
あの眼光を、ガットゥーゾは自分自身にも向けてきたのだろう。己の限界を直視し、目を背けず、向き合ってきた。
自分に何ができるかを見極め、その能力を極限まで高める努力を続けて、ミランでもイタリア代表でも不可欠の戦力となっていたのだろう。
ガットゥーゾから感じた強さは、自分自身を徹底的に客観視してきた人ならではの“揺るぎない強さ”のように思えた。誰にでもできることではない。だからこそ、そこを突き詰めた人の"強さ"は希少価値を持つ。インタビューで聞けた貴重な話の数々からも、そんな所感を持ったものだ。
懐疑論が大きかったミラン監督就任。
あのガットゥーゾが、現在はミランの指揮官として脚光を浴びている。意外と言えば、意外かもしれない。
2017年11月下旬の監督就任時は、おそらく懐疑的な見方のほうが強かった。それまでのコーチングキャリアで、これといった結果を残していなかったのだから無理もない。
選手兼任だったスイスのシオンでも、現役引退後に率いたセリエBのパレルモでも、ギリシャのクレタでもガットゥーゾ政権は短命に終わった。
2015-2016シーズンにイタリア3部のピサを2部に昇格させてはいたが、ミランの再建を託せるほどの実績とは言い難かった。