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勝利を「喜べない」西谷浩一監督。
大阪桐蔭を勝たせ続ける思考法。
posted2018/04/09 08:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
初戦の伊万里戦、14-2で大勝した大阪桐蔭の西谷浩一監督に、こんな質問をぶつけてみた。21世紀枠の高校はどこもゲームを壊してしまうのではないかという恐怖感を持って戦っている、対戦する方としても、点を取り過ぎてしまったらまずいのではないかという遠慮があるのではないか、と。
すると、何を聞くのだという顔をして言った。
「まったく、ないです」
ついでながら、8回、9回と1失点ずつしたことについて、次の試合のことを考えるとむしろ課題が見つかってよかったのではと向けた。すると、また困惑したような表情を浮かべた。
「……いえ、0点の方がよかったと思います」
愚問だった。もし、この2つの問いかけを肯定するような指揮官だったならば、ここまでチームを勝たせられるわけがない。
最強世代は「マスコミがつくった虚像」。
今年のチームは2年生のときからのレギュラーが多く、「最強世代」と呼ばれた。
「神宮大会で優勝していたのなら、まだいい。でも準決勝で創成館に負けてますからね。『最強世代』なんて言ったら、先輩たちに申し訳ない。マスコミがつくった虚像やぞ、踊らされるなよと言いました。
これまで25、6チームを預かってきましたが、冬の段階で言えば10番目くらいです。そこから3番目以内くらいのチームになれば、全国制覇のチャンスはあるなと思っていました」
少なからずチームを戒める意味でそう言ったのだろうが、本音でもある。
「よそのチームやったら、僕もすごいと思うかもしれません。たとえば、1人の選手が5打数4安打だったら、よそのチームの監督は4安打の方に目が行く。よう打つなと。でも、自分のところの選手だと、打てなかった残りの1打席が気になるもの。それが監督の責任だとも思うんです。
僕がいつも思うのは、全員をレギュラーにすることはできなくても、全員をうまくすることはできる、せっかく大阪桐蔭を選んで来てくれたのだから、そのためにできる限りのことをしてやろうと。だから、本当に謙遜でもなんでもないんですよ」