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“異例”のタイミングでプロ宣言。
平野美宇、知られざる半年間の葛藤。
text by
高樹ミナMina Takagi
photograph byKyodo News
posted2018/04/02 17:30
日本卓球協会の星野一朗専務理事からエリートアカデミーの修了証を受け取る平野美宇。
生まれて初めて「卓球をやりたくない」と。
本人によると、競技環境を変えようと思い始めたのは2017年シーズンの後半。
周知の通り、この年の前半は1月の全日本選手権女子シングルス最年少優勝を皮切りに、同種目でアジア選手権優勝(4月)、世界選手権銅メダル(6月)と破竹の快進撃が続いた。
ところがそれ以降、中国をはじめとする強豪国に研究された平野はワールドツアーなどの国際大会でなかなか勝てなくなっていった。
そして、そのフラストレーションは9月のアジアカップで爆発する。これまで向かっていく立場だったのが向かって来られる立場になった戸惑いから不安が膨らみ、3歳半から卓球一筋で来た彼女が生まれて初めて「卓球をやりたくない」と弱音を吐いたのだ。
試合会場のバックヤードで、流れる涙を止められない彼女の悲痛な姿が忘れられない。
この頃から平野のプレーは明らかに集中力を欠き、勝ちきれない試合が積み重なっていった。
全日本選手権の敗戦でプロ転向を決意。
ライバルの存在も平野の焦りを増幅させた。
平野が不調に苦しむ一方で、幼い頃から切磋琢磨してきた伊藤美誠(スターツSC)がリオ五輪後の不振から復調。迎えた今年1月の全日本選手権では、混合ダブルスと女子ダブルスを制して波に乗る伊藤とディフェンディングチャンピオンの平野が女子シングルス決勝で対戦し、伊藤に軍配が上がった。
この全日本3冠の偉業に歓喜するライバルの姿が平野の危機感をより一層あおることとなった。
「全日本選手権が終わった1月の終わり頃、自分の方から(プロ活動をしたいとJOCエリートアカデミー側に)言った」と平野。
同アカデミー総監督で日本卓球協会強化本部長の宮崎義仁氏も、「全日本選手権終了後、平野と数回にわたってミーティングを繰り返す中で、平野の方から環境を変えてプロ活動をしていきたいという申し出があった」と明かしている。