野ボール横丁BACK NUMBER
21世紀枠が示した高校野球の多様性。
私立の強豪だけが野球ではないのだ。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2018/03/26 17:30
大阪桐蔭から2点を奪い、21世紀枠出場校の初得点を記録した伊万里。彼らの戦いから何を引き出せるかは、見る側にかかっている。
点差だけ見ればもちろん完敗だが……。
終盤に一矢を報いた伊万里の吉原彰宏監督も、指揮官として、上品監督とほぼ同じ結論に達していた。まずは、評価されたものを披露しようという考え方だ。
「うちは、どんな展開になろうとも、最後まであきらめない。そこは表現できたと思う」
伊万里の8回に1点、9回にも1点を挙げた攻撃は、確かに心を揺さぶるものがあった。
3チームの中では、もっとも善戦したといえる由利工業の渡辺義久監督は、「点差は考えなかった」という。
「選ばれた以上、5点差だろうと、10点差だろうと、最後まで勝ってやるという気持ちを持ち続けることが大事なんだと言っていました」
点数だけ見れば、3チームとも完敗である。しかしこういう制度がある以上、そこだけにとらわれるべきではないのだろう。
あらゆる野球があることが健全さ。
膳所に快勝した日本航空石川の中村監督は、こんなホンネももらした。
「(21世紀枠のチームが相手なら)周りに勝って当たり前、点差をつけて勝たないとみたいな言い方をされましたけど、それは意識しないようにした。でも最後、10-0と聞いて、ホッとしている自分がいました」
21世紀枠は、2013年の土佐を除き、これまですべて公立校が選ばれてきた。同じ土俵で戦っていても、21世紀枠で選ばれた県立校と、日本航空石川のような、いわゆる「強豪私学」と呼ばれる高校の野球は、そもそも種類が違うといってもいい。
どちらの考え方が、正しいということではない。両論あることが高校野球のおもしろさであり、健全さなのだと思う。
吉原監督は、こうも話していた。
「21世紀枠は、今後の(高校野球の)あり方を投げかけているのではないかと思う」
21世紀枠3校が完敗しながらも残した跡。それは、通常のシステムだとなかなか気づかない、高校野球の多様性だった。