One story of the fieldBACK NUMBER
虎の目はどこを見ているのか。
オープン戦最下位の阪神が怖い理由。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2018/03/23 11:00
昨季はリーグ2位。今季は新大砲ロサリオも加入したが、オープン戦では結果が出ず、3月22日現在、2勝10敗1分で最下位にいる。
金本監督「まあ、弱いわな(笑)」
「まあ、弱いわな(笑)」
言葉とは裏腹に、その言葉は番記者たちに漂っていた空気よりも、ずいぶんと明るく感じた。
「まだ力がない部分があるのは事実だよ。ミスが出て負けているっていうのも良くないよな。ただ、シーズンは長いから。追い込んでいるのは本当だよ。追い込みすぎるくらいにな……」
そう言って浮かべた不敵な笑みに、少しゾクッとした。そして思った。虎の目はどこを見ているのだろうか。
「阪神に“捨てゲーム”は存在しない」
かつて球団の人間からこんな言葉を聞いたことがある。俗に言う捨てゲームとは、順位に関係なかったり、分の悪い試合でベテランを休ませたり、若手を大胆に起用したりして、翌日以降の勝利の確率を上げていこうという考え方である。言い換えれば「明日への肥やし」だ。
目の前の収穫か、長期的な育成か。
ただ、超のつく人気球団の勝敗は、何代にもわたって受け継がれてきたファンの人たちの生活や人生に深くかかわっている。「昨日の阪神は……」が朝の挨拶になり、「今日の阪神は……」が晩酌の肴になる。
だから、そんなファンやメディアの前ではグラウンドの当事者たちも眼前の勝敗に全力で一喜一憂しなければならない。少なくともそういう姿勢を見せなければならない。
そう考えてきた時代があったという。
一方で、それが若手育成への枷となり、外国人とベテランFA選手頼みのいびつなチーム構成を招いた一面もあると、個人的には思う。目の前の収穫にばかり没頭していれば、当然、畑は痩せていく。気づけば、ながらく日本一から遠ざかっていた……。
そこへやってきた指揮官は、土壌や根っこからの改革をしようとしている。だから、あらためて思う。今、虎の目はどこを見ているのか。