ライオンズの伝統を受け継ぐ者たちBACK NUMBER
長風呂と漫画と謝罪。
増田達至がつくる新たなストッパー像。
posted2018/03/23 11:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Hideki Sugiyama
たとえ、どんな夢でも叶えられるとしたって、野球のストッパーにだけはなりたくない。
プレーボールから仲間たちが勝利のためにつないできた1球、1球を背負い、最後のマウンドに上がる。そこには先発投手の白星や、中継ぎ投手のホールドや、野手のファインプレーや、監督の采配や、あらゆる人の生活や人生が山積みになっている。そして、それがたった1球のミスで台無しになる。そんな毎日に耐えられる人がどれくらいいるだろうか。
だから逆に、ストッパーという人種を観ているのはおもしろい。この仕事を全うしている人は大抵、2つに分けられる気がする。つまり沸騰しているか。凍てついているか。
アドレナリンを全開に、吠えながら投げる男がいれば、すべての感情を消し去った鉄仮面もいる。マウンドの重さを考えれば、ストッパーの個性が二極化するのも理解できる。
ただ、そんな守護神たちの世界に異端児が現れた。西武ライオンズ・増田達至、29歳。社会人のNTT西日本から'13年ドラフト1位で入団すると、リリーフとして頭角を現した。'16年途中からはストッパーとなり、初めて開幕から守護神を務めた昨シーズンは28セーブを挙げて4年ぶりのプレーオフ進出の原動力になった。
5年連続40試合登板の鉄腕ぶりもさることながら、落ちるボール全盛の時代に、ストレートとスライダーの2種類だけで投げ抜いていることは特筆すべきだろう。ただ、じつは増田を支えている最大の武器はその内面にあるという。入団以来、一緒に戦ってきたチームスタッフはいまだに不思議そうに首をかしげるのだ。
「打たれても絶対に引きずらない。切り替えができるんですよ。しかも意識してやっているわけではなくて、天然なんですよね」
それを聞いて、いざ増田に会ってみると、確かに殺伐としたマウンドを職場とする男とは思えない、ほんわかとした空気が漂っており、のんびりとした口調は癒し系のそれだった。