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大坂なおみとサーシャ・バイン。
初タイトルに敏腕コーチとの出会い。
text by
吉谷剛Tsuyoshi Yoshitani
photograph byGetty Images
posted2018/03/21 09:00
バインコーチの言葉に、満面の笑みを浮かべる大坂。その信頼関係は早くも分厚くなっている。
人見知りの大坂と陽気なサーシャ。
人見知りの大坂が陽気なサーシャと打ち解けるのに多くの時間は必要としなかった。
相性の良さは普段の練習風景からも伝わる。練習前のアップでは笑いながら併走し、トレーニングも一緒に付き合って同じ量の汗を流す。コートの中はとにかく明るく、笑顔が絶えない。練習は罰ゲーム付きのサーブ練習やダッシュで締めくくり、負けたサーシャがスクワットをしている様子を大坂がにやにやしながらスマートフォンで撮影すると、笑いの輪は練習を見学しているファンにも広がる。
3月から「チームナオミ」の専属トレーナーになった茂木奈津子さんも「コーチの雰囲気づくりが上手。チームとしてやりやすい」と言い、日本テニス協会で大坂を担当する吉川真司コーチも「教え方の引き出しが豊富」と人心掌握の巧みさにうなる。
「なおみとも常に話し合っている」
この男、単に明るい熱血漢というだけではなく、緻密さも備えているやり手だ。
世界5位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)との準々決勝前日には、相手のフラットな速い球筋に対し、「倍返し」のカウンターを狙う練習をやりこんだ。対照的に世界1位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)との準決勝前日にはスピン系の球を想定。守備とカウンターが強い相手に、崩した後に「決めきる」スイングボレーなどの練習に時間を割いた。
戦略家、ダリア・カサキナ(ロシア)との決勝前日には相手の得意なスライスやドロップショットを球際で拾う練習も行ない、相手の動揺を誘うプレーに「ぶれない」ための予防線を張った。
短い練習の中に必要なことを簡潔に落とし込む要領は、セリーナらトップ選手のもとで培ったノウハウか。
優勝を決めた後に、サーシャは言った。
「すべては練習からなんだ。試合で安定したプレーを生み出すための心構えが大事で、なおみとも常に話し合っている」
女の勝負の世界を熟知し、勝つすべを知っている男の言葉だけに説得力があった。