マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島にまたも現れた大物高校生捕手。
昨年は中村奨成、今年は黒川直哉。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySports Graphic Number
posted2018/03/20 07:30
捕手としてのたたずまいが、とても経験2年とは思えない黒川直哉。広島の地には名捕手の伝統があるのだろうか。
「器用じゃないけど、覚えたことは忘れない」
ついでに、ファールになって新しいボールを球審から受け取る時にも、ちょっとボールに目をやってダメージを確かめてあげる気遣いがあれば、投手というのはなかなか偏屈(失礼!)な人種ではあるが、「おっ、気にしてくれてるんだ」と、少しはマウンド上での孤独感から救われるのではないか。
実際、「そのとおり!」という反応を、私は何度か元・投手たちからもらっている。
「キャッチャーを始めて実質2年ですから、扇のカナメとして、こっちから要求したいことはまだいろいろありますけど、コツコツ頑張って、1つ1つクリアしてくれてますね。そんなに器用なほうじゃないので時間はかかりますけど、その代わり、覚えたことは忘れない。そういうタイプじゃないですかね」
高陽東高・沖元茂雄監督は、赴任5年目になる。その前は広島工業高の監督として、2012年には夏の甲子園にも進んでいる。高校球児の頃は、古豪・広島商業高でマウンドを守った。
これで刺せる、という体内時計。
「スローイングは信頼できるレベルになってくれたかなって思うんですよ。別に、遠投百何十メートルとかって、いわゆる鉄砲肩ってわけじゃないんですけど」
目の前で、二塁盗塁のランナーを刺してみせた。
二塁送球タイムが計られて、1.9秒台だなんだとすぐに言われてしまう今のご時世で、いたずらに急いで投げようとし過ぎないのがいい。強く投げようとし過ぎないのが、さらによい。
“1.9秒”がありがたいのは、たまたま送球が二塁ベースの上に乗った時だけのことで、急いであわてて投げても、送球が逸れてしまえばなんの意味もない。
一塁に出た走者たちが、繰り返しスタートをきる。
そのたび、あわてず急がず、しっかり腰を割って縫い目に指をかけて、黒川直哉がきちんと二塁ベースの上にボールを届けてみせる。
決してスローモーじゃない。このタイミングで、この連動でベースの上に投げれば刺せるんだ。そんな“体内時計”が黒川捕手の中に内蔵されているようだ。
沖元監督が言う「信頼に足るスローイング能力」、間違いない。