マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島にまたも現れた大物高校生捕手。
昨年は中村奨成、今年は黒川直哉。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySports Graphic Number
posted2018/03/20 07:30
捕手としてのたたずまいが、とても経験2年とは思えない黒川直哉。広島の地には名捕手の伝統があるのだろうか。
精度が伴わなかった打撃も、冬で一変。
バッティングは、「この冬を境に変わった」と沖元監督が言う。
春はこれがうれしい。ひと冬越して、どう変わったのか。それが、私たち高校野球を見る者が春を待つ“値打ち”なんだ。
もともとがこれだけの体格。タイミングが合った時の打球のスピードと飛距離にはアッと驚くほどのものがあったが、なかなか精度が伴わなかった。
それが、この春先の紅白戦では、レフト94mのフェンスの向こうにある2階建ての部室の屋根に、2打席たて続けにぶつけてみせたという。
そんな話を聞かせていただいている目の前で、黒川直哉、サウスポーの内角低め、なんとも打ちにくいコースの速球をレフト線にライナーで持っていった。
普通に打てばファールにしかならない足元のボールを、サッと払うようにコンパクトに振り抜いた“技あり!”の一打に驚いた。
「あんな難しいこともできるんですね! びっくりした!あんなこともできるんだなぁ、あいつ。新発見ですね、今日は」
選手の新たな一面、意外性を率直に喜べる監督さんは気持ちがいい。
実戦練習では黙って見つめ、見守り、終わってから講評を述べるのが「沖元式」だという。
きっと今日は、期待の4番候補の新発見を、抑えめながらうれしそうに語るのだろう。
引っ張りたいのは本能だろうが。
その芸術的なバットコントロールの1つ前の打席では、サウスポーのシュート回転を帯びた速球を2つ振って三振を喫していた。
引っ張って飛ばしたいのは、腕っぷしに覚えのあるヤツの“本能”だ。センター方向への意識がバッティングという仕事により多くの利をもたらすことを、いつかどこかで体感すれば、スイング軌道もおのずと変わってくることだろう。