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寒いと運動能力は落ちる……のか?
冬季競技の選手が戦う過酷な環境。
text by
増田晶文Masafumi Masuda
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2018/02/26 08:00
-15℃での開幕式という寒さが話題になったが、その寒さに適応するのも勝負のうちなのだろう。冬季のアスリートは過酷だ。
寒いと運動能力は当然下がる。
競技パフォーマンスを、温暖な気候と寒冷な環境下で比べたら歴然とした差がうまれる。
寒くなるほど体温低下を防ぐため末梢血管が収縮し、血圧は上昇する。血液循環は阻害され、手足の指先の動きが制限されてしまう。筋肉も動きが鈍化するのを避けられない。筋肉の伸縮性が損なわれれば、腱や関節のケガのリスクが高まるのは当然のことだ。
さらに、寒冷下では脳へのエネルギー供給に支障がでる。結果として警戒心や論理的思考力の低下は否めない。
最悪の場合は睡魔が襲い、意識を失ってしまうケースも。
映画の雪山遭難シーンで、「眠っちゃダメだ!」と叫ぶのはお約束だが、これは寒冷気候下だと現実にある恐ろしい生理現象なのだ。
ほかにも、冷気を吸いこむために気管支の炎症がおこったり、排尿の頻度アップで脱水症状に陥ることさえある。
寒くないと走れない競技は結構ある。
生きてるだけでもこんなに大変なのに、その過酷な条件の中でスポーツとなれば体への負担はいかばかりか。しかし、冬季五輪の種目だけでなく、シーズンスポーツとして冬場にピークを迎える競技はけっこう多い。
ラグビートップリーグのクボタスピアーズでヘッドトレーナーを務める吉田一郎さんは強調する。
「ラグビーは冬だからこそ、選手のパフォーマンスが発揮できるスポーツです。沖縄に遠征して25℃という気温で試合をしたことがありますが、選手はバテバテで最低の内容でした」
ちなみにラガーマンたちは、ひと試合あたりバックスで7km、前列の選手でも5kmは走るし、格闘技なみのボディコンタクトがある(サッカーだと走る選手は10kmを大きく上回るケースも)。
「シーズン中、1週間に1度の試合が組まれているのも、冬場だからこそ可能なスケジュールなんです。体力のリカバリーを考えた場合、もし真夏がシーズンなら、1カ月に1、2回の試合でも選手の体調が危ないですよ」
なるほどラグビーにサッカー、バスケ、アメフト……ラン&コンタクトのボールゲームは冬に集中している。マラソンも冬のレースが定番、これを酷暑の地で開催する愚はいわずもがな。