野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
DeNAのPV映像はなぜ屈辱で始まる?
「過去」こそが横浜の力の源泉だ!
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/01/22 08:00
「前だけを見る」ことがポジティブとは限らない。過去を受け止められるようになったDeNAは、強い。
ファンだけでなく選手も、過去をモチベーションに。
この、過剰なまでのやる気スイッチの入りっぷり。一体どうしたものかと感心していたのだが、実はこの中日戦の試合前。キャプテン筒香嘉智が選手のモチベーションを上げるために、球団スタッフに映像制作を依頼し、そのスペシャルPVを選手全員の前で上映していた場面が「FOR REAL」に描かれていた。
一体どんな内容なのかと気になっていたのだが、この正月に届いた『FOR REAL』のDVD特典に、「残り10試合、筒香が製作したモチベーションムービー」なんて、そのものズバリの映像があった。
そこに映し出された映像でも、ベイスターズは“過去”を見ていた。大魔神、番長、権藤監督らが語る'98年の日本一パレード。その後の暗黒時代の光景と共に「もうこんな時代は終わらせなければいけない」「新しい時代はすぐそこまで来ている」とアジる文字。
小池、ひちょり、金城、番長……バトンを受け継ぎ去って行った人たちの姿。そして、最後に「俺たちこそ勝つのにふさわしいチームだ」と続いていく。
こんな映像、ファンが見れば慟哭必至である。この6年間でDeNAのやり手な人たちは、もう自分たちの脳味噌のどこをどう刺激すれば涙も金も出てくるのかを完全に把握しているとは思っていたが、まさか、現場の選手もファン同様に“過去の屈辱”やら“時代を変える”という思いをモチベーションにしていたことに驚きがあった。
このプロパガンダともいうべき映像戦略。グラウンドと球団、そしてファンが一体になって同じ目標を見ているこの理想的な状態を作り上げることに奏功したといえるだろう。
そしてこの一体感こそが、このチームのど真ん中。4番で主将でモチベーターに加え、敏腕プロデューサーという肩書までついてしまった筒香が言うところの「ファミリー」というものであるのだろう。
“先祖”内川聖一に思い知らされた日本一の遠さ。
秋。そんな家族は先祖に出会い、失われた時代に思いを馳せることになる。日本シリーズ第6戦、「このまま日本一になれるんじゃないか」とその気になった瞬間、立ちはだかったのが、横浜時代、'98年組の背中を追い続け、暗黒の中で足掻き続けた内川聖一だった。
山崎康晃のベストピッチを狙い撃ちでスタンドへ運んだその姿は、「まだまだ日本一になるにはこんなもんじゃ足りない」というメッセージにしか聞こえなかった。
19年ぶりの日本シリーズ出場。そのひとつの出来事を皮切りに、時代が大きく流れていく。内川、吉村、寺原との再会。村田修一は巨人を離れ、相川亮二の引退で'98年の所属選手の全員が引退となった。あの長かった暗黒は終わり、希望となって支えてくれた高崎、大原、小杉、下園、山崎憲晴らはチームを去った。