野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
DeNAのPV映像はなぜ屈辱で始まる?
「過去」こそが横浜の力の源泉だ!
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/01/22 08:00
「前だけを見る」ことがポジティブとは限らない。過去を受け止められるようになったDeNAは、強い。
「どうせ最下位」から「ナメたらタダじゃすまさない」。
臥薪嘗胆。広島での無念をワスレルナ。といわんばかりに“あの場面”は1年間、このチームのあらゆる場面に登場した。
印象的だったのが、開幕日の午前中に球団公式HPに登場したOZROSAURUSによるプロモーション。球団スローガンと同じ“THIS IS MY ERA.”と題されたその動画に映し出される扇情的かつ魂を揺さぶるリリック。暗黒時代の映像と昨年の広島での敗戦が絶妙にブレンドされた導入部から、「横浜ナメたらタダじゃすまさなーい」の叫び。
唖然である。HIP-HOPを知らない横浜Boy StyleなCoCo世代、朝っぱらから20年分のヤワな情緒をひっくり返され、あらがう術なく涙鼻の海に沈んだ。
なんというプロテストソングなのか。高田渡ならぬ中野渡が「モバ浜はどうせ最下位だ」と言っていた時代は終わりを告げた。もはや時代は、横浜ナメたら、タダじゃすまさないのである。
そんな球団からの煽りに応えるべく、若い選手たちは日に日に成長していった。彼らのシーズンにおける戦いは、1年間チームの舞台裏を密着撮影したドキュメント『FOR REAL』をご覧ください。あれと付属本『in progress』があれば、2017年シーズンについて語れることなぞありゃしません。
忍耐石仏のラミレスが鞭を入れた瞬間に。
73勝65敗5引き分け。結果として2年連続CS出場。そして'01年以来の貯金を作ったシーズン。勝った! というよりも、連敗をしない。負けなかったという印象の方が強い。
首位広島から14.5ゲーム差の3位。一時は4位やむなしと腹をくくったこともあった。しかし、土壇場のところでベイスターズは耐えきった。特に9月の戦いなどは本当に辛苦を極めていたのに。
そんな、ピンチの時、弱気の虫が這いずり回る時にやってくる。我らの勇気を奮い立たせる「横浜ナメたらタダじゃすまさない!」の咆哮。
9月の頭、球団は突破へのブースターとして、掟破りの新スローガン「OUR TIME IS N.O.W.」(すべてはこの時のために)を発表。再び流れるそのPVでバイブス上げて、逃げ切りを図ろうとしたのだが……。
ラミレス監督は「勝負はまだ先」と石仏の構えで、9月頭の巨人3連戦で手痛い連敗。17日巨人との直接対決最終戦にも敗戦し、その時点でゲーム差1の4位。残り11試合。そのうち苦手とする阪神と5連戦なんて大ヤマがあって、CS出場は風前の灯火かと思われた。
ところが9月23日中日戦、残り10試合。吹き荒れる風雨にも我慢に我慢を重ねてきた忍耐石仏ラミレス監督がついに鞭を入れた。「今シーズン最大の山場」と一戦必勝で挑んだこの試合、ベイスターズはなんと初回一気に8得点で試合を決めてしまう。
すごい。それなりにプロ野球を見てきたが、「やる」と決めた途端、こんなあからさまにやってしまう野球をはじめてみた。