サッカー日本代表「キャップ1」の男たちBACK NUMBER
伝説のスーパーサブ森山泰行の今。
代表1キャップで感じたカズの理念。
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byEijinho Yoshizaki
posted2017/12/08 11:30
高校サッカー激戦区の1つ、埼玉で指導する森山。自らのサッカー人生で得たものを育成年代に還元する。
「カズさんには文化として根付かせる理念があった」
結果、どうなったか。森山は「ピッチで1人だけ、自分だけのために戦う選手になってしまった」と感じていた。
「今、思えばスタート地点で負けていたんですよ。自分が生き残って、ワールドカップに出て、活躍することしか考えられなかった。そこは日本代表、公(おおやけ)のチームなのに。なぜ、そこに考えをもっていけなかったのか。自分が代表で活躍する、代表に生き残るというのは自分の話じゃないですか。例えば、カズさんはサッカーを日本に文化として根付かせる、という確固たる理念の下でプレーしている。僕は自分のために、自分が気持ちよくなれればいいかな、という考えでプレーをしていた。それじゃ、勝負にならないですよ」
実際に森山はピッチ投入直後に右サイドに流れてボールを触った。その後、左サイドでボールを受け、力のない左足のシュートが相手GK正面に飛ぶ。右サイドで簡単なポストプレーを見せた直後、ゴール前のパス回しに加わった。その後しばらくボールに触れない。ボールを受けた際には自分の左を追い越した味方選手のほうがいいポジションにいたが、あえて右にボールを置きなおし、シュート。相手守備陣に阻まれている。
この試合の映像はほとんど見ていないし、細かい場面も覚えていない。
こちらから「当時は『中田ヒデと一緒に出してくれれば、あっと驚く仕事ができる』と試合前にコメントしていたようですね」と振ってみたが、そのことも覚えていなかった。
代表でやるんなら、誰とやっても合わせなきゃ。
ただ、試合前の合宿時の出来事はよく覚えていた。
「加茂周監督には『(パスを受けるための)動き出しが早すぎる』と言われたんです。でも僕は『遅くなっても受けられないから』と思っていた。いっぽうで中田ヒデは周囲に対して『動き出しが遅い』という要求もしていた。だから考えが合うのかな、と思ったんでしょう」
しかし、その考え方がよくなかったのだ――。今振り返るとそう思う。
「日本の代表でやるんなら、誰とやっても、合わせなきゃいけなかった。自分のことしか考えられなかったから、パスが合わなかったんです。自分は使ってもらう選手だから、パスを出してもらわないと点を取れない。そういうことも、キャップ1で終わった理由ですよね」
試合後、もう次はないな。とすぐに悟った。与えられた時間で、すべてを出し切ることができなかったからだ。