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ボーヤン・ジンを探して――。
中国大陸を駆け巡った奇妙な取材記。
posted2017/12/08 18:00
text by
西谷格Tadasu Nishitani
photograph by
Asami Enomoto
Number編集部から、「4回転ジャンプの先駆者、金博洋のルーツを辿る」という企画の提案を受けた。筆者はフィギュアスケートに関しては門外漢だが、中国での取材にはかつて上海で取材活動をしていたこともあり、ある程度慣れている。まずは現地で情報を集め、最終的には本人や関係者のインタビューまでこぎつけられたら……というのが最終目標である。
まず、中国版ウィキペディア「百度百科」で「金博洋」と検索すると、所属先が「黒龍江氷上訓練中心」と書かれていた。彼の故郷の黒龍江省ハルビン市にあるスケートリンクのようだ。
だが、電話をかけても一向に誰も出ない。地元のスケート協会に連絡して紹介してもらうことも考えたが、それをするのは、ためらいがあった。
公務員のような組織や大企業に取材を申し込むと、多くの場合、事前に取材申請書を用意したり質問項目などを細かく提出したりすることを求められる。それで許可が得られれば良いのだが、1週間ぐらい待たされて、結局取材NGということが少なくない。場合によっては、本人の意向を聞く以前に断られてしまうこともある。
ならば、本人に近いルートから依頼をしてつないでもらったほうがうまくいく可能性が高い。
電話に出ないのなら、直接行ってみるしかあるまい――漠然とした手がかりしかないなか、初冬のハルビンへ向かった。
マイナス15度は、素肌を外にさらせません!
最低気温マイナス15度という寒さは、肌を一切外気に触れさせることができなかった。手袋を脱ぐと肌を刺すように冷気が染み込み、瞬く間に手がかじかんでしまう。
市の中心部からタクシーで15分ほどのエリアに、金博洋が所属しているスケートリンクはあった。
敷地は大学のキャンパスのように広々としており、門をくぐると奥のほうには体育館のような建物が見えた。
なかに入ると、巨大なリンクが目に入った。