野球のぼせもんBACK NUMBER
工藤監督は、今宮健太の話がしたい。
右打ちをやめ、取り戻した打の意識。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/11/28 11:00
今季の今宮は出塁率.317、長打率.422、OPS.739とチームへの貢献度が高い打撃を見せた。
川相昌弘の世界記録を超えるペースで犠打を量産。
それでも今宮は球界屈指の“おくりびと”としての仕事を全うしてきた。現在26歳にして、すでに通算270犠打を積み上げている。レギュラーになってから6シーズンで、年平均45犠打。このペースでいけば32歳を迎えるシーズンには、あの川相昌弘の持つ533犠打の世界記録を抜くことができる。
今シーズンも、52犠打はパ・リーグで圧倒的1位だった。「それだけバントがありながら、64打点は立派です。相手球団から怖がられる2番打者だったと思います」と工藤監督はとにかく称賛の言葉を惜しまなかった。
自分に制限を設けることをやめ、自然体で打つ。
今宮は今年の打撃について「8年目にしてようやく『コレだ』というものが見つかった」と自信めいた発言をしている。
「今年は右に打とうとは一切考えませんでした」
バントのサインには確実に応える。“おくりびと”にはなっても“つなぎびと”ではない。
「右打ちのサインが出たり狙い球があったりすれば、流し打ちや、逆に初めから引っ張りに行ったこともありましたけど、基本的には全部センター返しのつもりで打席に立っていました」
自分に制限を設けることをやめた。要するに自然体。人間はどこかに意識を置けば、余計な力が入るもの。リラックスすることが弱点克服につながった。
「僕は上半身の力が強くて、そっちに頼り過ぎる打撃になりがちでした。力感なく振ること。狙いはすべてセンターへ。結局タイミングが少しずらされるから、レフトやライトにも飛んでいく。それがたまたまいい結果になる、という意識でした」
ただし、今年の成績に満足感はない。
「率が全然ですよ。僕はずっと3割バッターを目指している。その難しさを知れるラインにすら辿り着いていませんけど」
今季は8月4日の時点で打率.290をマーク。しばらくは粘ったものの、終盤戦で失速してしまった。