マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高卒と大卒、志望届を2度出すも……。
指名されなかった人が見たドラフト。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/11/28 07:00
ドラフト会議が華やかなのは、自分とは遠いところで他人の人生が揺れるからだ。当人たちにとっては本当に厳しい瞬間なのだ。
“プロ待ち”で内定をくれた会社に救われた。
「調査書がいくつか来てたのも知ってましたし。実績はゼロに等しいぐらいでしたけど、もしかしたらって気持ちもあったんで……。選手って、なんかそういううぬぼれたとこ、あるんですよ(笑)」
“調査書”という存在が語られるようになったのも、ここ数年のことだろう。
9月に入ると、プロ球団はドラフト指名候補がほぼ固まった段階で、候補選手たちのもとに調査書なるものを送り、正式なプロフィールやプロ志望の有無を記入、返送してもらって、ドラフトの正式資料にする。
調査書はある意味、プロ側からの「ご縁があれば指名させていただきます」という意思表示でもある。選手側は、調査書が来たかどうか、何球団から来たかによって、自らのドラフトを占う。
「結局指名はなかったんですけど、ありがたいことに、今の会社から“プロ待ち”で内定をいただいていたので、宙ぶらりんってことは避けられたんですが」
ドラフト指名がなかったら来て欲しい、という約束のもとに採用内定をもらう。それが“プロ待ち”である。
社会人チームがたくさんあって、選手のほうが売り手市場だったバブルの時代までは、当たり前にあった風習だが、社会人チームと選手の立場が完全に逆転した最近は、かなり少なくなったと聞いている。
「自分の場合は、それに救われました。拾ってもらったと思ってるので、どんな仕事だって、ぜんぜん平気ですし!」
聞いてるこっちのほうが救われた思い。
「ほんとに望まれた選手って、いったい何人……」
「自分、ドラフトのたんびに思うんですよ……」
勢いづいていた口調が、一転クールダウンしていた。
「今年のドラフトでも80何人か指名されましたよね。この中で、ほんとに望まれて指名された選手って、いったい何人いるんだろ……。それが僕の素朴な疑問なんです」
ほんとに望まれて指名された選手。
「プロって、相手からほんとに望まれて行く世界だと思うんです。プロ側の本音として、こいつは使える! と思って指名した選手と、使えれば儲けものという評価。ふた通りありますよね。こう言っちゃ失礼ですけど、1位と8位って、おのずと違うはずなんですよ、相手(プロ側)の待ち受け心理としても。何位でもスタートラインは同じ……なんてきれいな言い方もありますけど、違いますからね、現実に。そこのところを、よく見極めないと」