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高卒と大卒、志望届を2度出すも……。
指名されなかった人が見たドラフト。 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byKyodo News

posted2017/11/28 07:00

高卒と大卒、志望届を2度出すも……。指名されなかった人が見たドラフト。<Number Web> photograph by Kyodo News

ドラフト会議が華やかなのは、自分とは遠いところで他人の人生が揺れるからだ。当人たちにとっては本当に厳しい瞬間なのだ。

「育成でもOKって言ってる選手は経済的に余裕が」

 調べてみたら、今年のドラフトで指名漏れだった大学生選手で、高校3年でも指名漏れした選手は1人もいなかった。念のため、昨年以前の何年かで、“指名漏れ2回”の選手を探してみたが、これが意外なほど少ない。

 あまり本人の名誉になる話でもないと思うので、きっちりした数字は挙げないし、この先の本人談話も匿名にさせていただくが、数少ない経験者の中から興味深い話を聞くことができた。

「ウチの親は野球にあんまり詳しくないんで、高校で志望届を出したときは、出せばプロに入れると思って、監督さんになんとか書いてもらおうとして、『どれぐらい包んだら……』って、ほかの親のところに聞きに行ったぐらいですから」

 今はそんな思い出ばなしをしながら笑っているが、この選手の場合は、高校の頃から“本気度200%”の志望届だったという。 経済的に、彼が一家の稼ぎ手にならざるを得ない事情があった。

「育成でもOKって言ってる選手って、たぶん経済的に余裕がある人なんじゃないですかね。引っ越し代ぐらいの支度金に、民間企業とそんなに変わらない年俸ですよね。ほんとに困ってる家庭の子って、もっとまとまったお金がほしいんです。だから、ドラフトも支配下ドラフトでないと、ダメなんですよ」

 訴えるように実情を語る口調より、話の内容に説得力がこもっていた。

大学では、立場上プロ志望届けを出すしかなかった。

 高校で指名漏れになったその選手は、ある大学に“ぜんぶタダ”で進学することになった。

 甲子園にも出ていない無名の高校球児だったが、その素質を惜しんだ大学監督が、決まりかけていた地元の一般企業就職から野球の道にベクトルを引き戻したのだ。

「それなのに大学でも故障したり、たいした働きもできなくて……。自分では、プロはムリだろうなと思いながら、出さないわけにいかないんですね、立場上」

 苦しいところだったという。

 正直、野球は上がって、地道に働いて親を安心させて……そんな安定路線を選びたい思いが強い中で、ぜんぶタダ、つまり大学のお金で授業に出させてもらって、野球もさせてもらって。ならば、何か野球で恩返ししなければ“恩知らず”になってしまうのではないか。

【次ページ】 “プロ待ち”で内定をくれた会社に救われた。

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山口裕次郎

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