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ダルビッシュと滑るボール。
最強スライダーが打ち込まれた理由。 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byGetty Images

posted2017/11/11 11:00

ダルビッシュと滑るボール。最強スライダーが打ち込まれた理由。<Number Web> photograph by Getty Images

移籍マーケットをみれば、ダルビッシュ有の評価が落ちていないことはすぐに分かる。なにせ、彼のスライダーはメジャー最強クラスなのだから。

ダルビッシュのスライダーの被打率は、凄まじく低い。

 この泥が見つかる前は、噛みタバコの汁や靴墨が使われていた。ただ、効果は上がらなかったらしい。30球団が年間162試合を行い、1試合で使われるボールの数は70個から80個といわれるから、泥の需要は非常に多い。異色の独占企業というべきだろう。

 ワールドシリーズでも、泥は使用球に擦り込まれたはずだった。だが、スライダーは曲がらなかった。ダルビッシュだけでなく、ジャスティン・ヴァーランダーやケン・ジャイルズといったアストロズのスライダー投手も犠牲となった。抑えの切り札ジャイルズは、2試合に登板してアウトを合計5つしか取れず、自責点5を記録した。防御率27.00。第4戦では打者3人と対戦してひとりも討ち取れなかったし、ストライクがまったく入らなかった。レギュラーシーズンの彼は、投球の47パーセントを占めるスライダーの被打率が1割8厘だったのだが。

 ヴァーランダー(シリーズの防御率=3.75)の場合は、試合後の談話が興味深かった。「試合前、使用球にサインをさせられるのだが、スターバックスのレシートにサインするような感じだった。ボールにサインしようとしても、ペンが上滑りして、インクが染みていかない。スライダーを投げたときは、とくに滑ると感じた。ピーダーソンに本塁打を喫した球もスライダーだった」

 こうした事情を勘案すれば、ダルビッシュの乱調もどうにか説明がつく。レギュラーシーズンのダルビッシュは、スライダーを投げたときの被打率が1割2分7厘だった。つまり難攻不落の決め球なのだが、カットボールになると、被打率が3割1分4厘に跳ね上がる。曲がらないスライダーとは、速くないカットボールのようなものだから、打ちごろの球になってしまうことは致し方ない。

スライダーを投げない投手は好成績に。

 ところが皮肉なことに、この使用球の恩恵を受けた投手もいないわけではなかった。アストロズのチャーリー・モートン(シリーズで10回3分の1を投げて、防御率1.74)やドジャースのアレックス・ウッド(7回3分の2を投げて1.17)がそうだ。両者はともに、スライダーを投げない。投球術の柱は、ツーシームとカーヴ(ウッドはナックルカーヴ)。あくまで結果論だが、この球種が今回の使用球とは相性がよかったようだ。

 それにしても、予想を裏切られることの多いワールドシリーズだった。一流投手たちがこれだけ乱れた割には、シリーズ22打席以上で打率3割を超えた打者はジョージ・スプリンガーただひとり。それでいて、両軍の本塁打総数は史上最多の25本だったのだから、単純な結論は出せない。熱狂が冷めたあとで、改めて精細に分析する識者も出てくるのではないか。FA権を得たダルビッシュの行く先(ジェイク・アリエータに去られそうなカブスが有力候補だが)もふくめて、眼を離せないオフシーズンが訪れそうな気がする。

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ダルビッシュ有
ロサンゼルス・ドジャース

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