球道雑記BACK NUMBER
上原浩治の20勝には届かずとも。
ロッテ酒居知史“閉幕一軍”の充実。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byKyodo News
posted2017/10/19 08:00
今季が契約最終年となった伊東監督のもとで5勝を積み上げた酒居。井口新監督のもとではローテーションの軸としての飛躍を期待される。
「1年目は『開幕一軍』より『閉幕一軍』が大事」
そうした反省が、シーズン終盤の投球にも生きていた。
今季最終登板となった10月9日のオリックス戦。4回に味方が5点を奪い、逆転に成功すると、酒居は相手が打ち気に来るところをサラリとかわして、わずか8球で三者凡退に抑えた。この日の彼は、何を投げても満足がいかないくらい調子が悪かったと試合後に話していたが、そうした中でも7回を7安打1失点にまとめ、確かな成長の跡を感じさせた。
今年3月、二軍に降格した際、ある先輩からこんな言葉をもらっていた。
「1年目は『開幕一軍』より『閉幕一軍』の方が大事だから」
その言葉を胸の奥に大事に仕舞って、どんなときも自分を見失わず、やるべきことを黙々とこなしてきた。
二軍の生活が続く中、ふとテレビに目を向けると気になるドキュメント番組が放送されていた。福岡ソフトバンク・千賀滉大を特集したものだった。
その放送の中で千賀は「先発として1年間を通せた一番の要因」を問われ、工藤公康監督から言われてきたトレーニングをシーズン中も欠かさず続けていたことを挙げていた。
「(その映像を見て)目先の結果のためだけに調整するんじゃなくて、ずっと何年間も結果を残すという意味も含めて、これからもやっていかなきゃいけないと思ったんです」
井口新監督のもとで中心となるために。
思えば今年1月に行われた新人合同自主トレでも、全体練習が終了し各自が解放感を露わに自主トレへと移行していく中、酒居は1人だけウエートルームに残り、黙々と別メニューをこなしていた。
「ピッチングは感覚、トレーニングは理論」と、自分のメソッドを話す酒居に、千賀の成功例は強く共感できるものであったし、自分の目指す道を再確認できるものだった。
「正直、まだまだ分からないことも多々ありますし、この先、どんどん壁も生まれてくると思います。だけど『閉幕一軍』と言っていたことに対して、今こうして一軍で先発を続けていることが、1つの答えで、また来年に繋がるものだとも思っています。またこれからも気持ちを切らさずに、やるべきことをしっかりやり切る。当たり前のことですけど、それを来年以降も続けていけるように……。今はその想いしかないですね」
目指しているものはまだまだ遠い。しかし、それも努力次第で近付いていけると確信した。マウンドで見せる淡々とした表情の中に熱く燃えるハートがある。井口資仁監督のもと新体制になる千葉ロッテ。その中心には酒居知史がいる。そんな気がしてならない。