球道雑記BACK NUMBER
上原浩治の20勝には届かずとも。
ロッテ酒居知史“閉幕一軍”の充実。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byKyodo News
posted2017/10/19 08:00
今季が契約最終年となった伊東監督のもとで5勝を積み上げた酒居。井口新監督のもとではローテーションの軸としての飛躍を期待される。
「打たれてもいいから、二軍では自分の球を」
今年3月、酒居は春季キャンプでの好調を維持できず、オープン戦途中の3月中旬に二軍行きを言い渡された。
同じルーキーの佐々木千隼が4月6日に一足早くプロ入り初先発初勝利を飾ったその裏で、自分の球と間合いで、次こそは勝負ができるようにと根本から自分の投球を見つめ直した。
「正直、(オープン戦期間に)上にいたときは結果ばかりを追い求めて、投げていても指にかかる感じもなく、納得いく中で投げている状態ではありませんでした。なので、まずはしっかり自分の球を取り戻すことから始めよう。打たれてもいいから、二軍では自分の球で投げ抜くことだけを考えようと思って取り組んできました」
二軍調整中の彼を取材して、印象的だった姿が幾つかある。
そのうちのひとつが4月12日の東北楽天戦だ。
1、2回と三者凡退に抑えた酒居が、味方から6点の援護をもらった直後の3回表、先頭打者の福田将儀に四球を与えると、瞬く間に3連打を食らい、2点を献上した。
打たれて落ち込むだけでなく相手打者の心理を知る。
味方の大量得点後の難しい“入り”ではあったが、試合後に彼に尋ねると自分の頭をすでに整理し切ったかのように、こんな言葉を返してきた。
「こういう経験は今までもいっぱいありましたけど、今日改めて、あれだけ味方に点が入った後、相手バッターの心境はどうなのかな、と思ったんです」
「ん?」と疑問が浮かんだが、さらに注意深く酒居の言葉に耳を傾けた。
「あれだけ点(6点)が入った後だと、逆に向こうは慎重さに欠けるんじゃないかなとも思ったんです。こっちはいつも通り丁寧に行くとか、真っ向勝負で行くとかだけではなく、試合の流れや、相手打者の気持ちも読まなきゃいけない。変な言い方かもしれませんが、向こうは自分の結果を重視した打席にしよう、と考えている可能性もあるわけじゃないですか。その中で奥行きや緩急を使って、冷静に相手を追い込むことをしないと、今日みたいな展開になったときに、同じような結果になってしまうんじゃないかと思ったんですよね」
打たれて落ち込むだけでは終わらない。失敗の中から次に繋がるヒントを探す。彼の“野球脳”の高さを感じた。