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高騰する移籍金はどこから出てる?
ネイマール290億円移籍の背景。
text by
並木裕太Yuta Namiki
photograph byAFLO
posted2017/09/13 11:00
ネイマールだけでなくムバッペが加わったPSG。カバーニを含めれば移籍金にして“570億円トリオ”である。
移籍金が「払いやすいお金」である理由って?
そして、各クラブにとって移籍金は、性質上実は「払いやすいお金」でもあります。
移籍金は選手に支払う給与と異なり、クラブ間で移動するお金です。今回は選手の獲得のために高い金額を支払ったけれども、前途有望な若手選手を自前で多く育てることができれば、今度は売る側になり、支払ったお金も将来的には回収可能――移籍金とはそんな見方ができる、いわば「サッカー界を循環するお金」なのです。
先ほど述べたように世界からの競争参入者が増えたことで獲得コストの高騰が起こっているとはいえ、それは同時に売却によるリターンの額の高騰も意味し、「高いから買わない」ではなく「高いけど、同等かより高く売れそうだから買い」の状態、要は相場全体が高い状態にあると言えるのではないでしょうか。
ネイマール移籍はカタールまで絡む特殊な事情が。
また、移籍事情に詳しいサッカー界関係者に聞いたところでは、ネイマールの巨額移籍には特殊な事情が絡んでいるようです。
ネイマールを獲得したPSGの株式は、その100%をカタール王国が運営する投資機関、QSI(カタール・スポーツ・インベストメント)が保有し、さらに同国の観光振興部門QTA(カタール・ツーリスト・オーソリティ)が大口のスポンサー。加えて同国スポーツメディアの「BeINスポーツ」がリーグ・アンの放映権市場に参入するなど、カタールとPSG、カタールとフランスサッカー界のつながりはかなり密接なものになっています。
一方、そのカタールは2022年のW杯開催が決まっているものの、今年6月「テロ組織を支援している」などの理由でサウジアラビアやUAEなど周辺諸国から国交断絶を言い渡されるという苦境に立たされています。
このような状況の中、サッカー界においてプレゼンスを高めたいカタールの意向がPSGやフランスサッカー界への投資を加速化させ、その延長線上にネイマールの獲得があるというのです。
さまざまな事情が絡み合う移籍金の高騰は、世界各国リーグのパワーバランスが均衡に達するまで、しばらく続くのかもしれません。
(構成:日比野恭三)