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智弁和歌山と高嶋仁は死なず。
「人を蹴飛ばしたらあかんので(笑)」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2017/08/17 18:00
高嶋仁は毀誉褒貶の激しい監督である。しかし智弁和歌山が強豪であり続ける事実は、彼なしには説明できない。
高嶋監督「人を蹴飛ばしたらあかんので(笑)」
智弁和歌山はこの夏、6点差をひっくり返すという大逆転劇で4大会ぶりに初戦を突破し、2011年夏以来、6年振りに甲子園での勝ち星を重ねた。
'97年夏のVメンバーの1人で、この春コーチとして智弁和歌山に戻って来た中谷仁(阪神、楽天などでプレー)が言う。
「昔は、こういうゲームができていた。どんな劣勢に立たされても、それを打撃で跳ね返す。久々に智弁らしい試合ができましたね。OBやら新聞記者の方やらが『高嶋先生は、丸くなった、丸くなった』と言うので心配しとったんですけど、そんなことなかった。『クソーッ!』って大声出したり、物が飛んできたり……。いや、こういうこと言うとまずいか(笑)。まだまだ闘志は衰えていませんよ」
その言葉を伝えると、高嶋仁はこう笑った。
「ボールだけ飛ばします! 人を蹴飛ばしたらあかんので(笑)」
高嶋は'08年に選手を蹴飛ばしてしまい、3カ月間の謹慎を食らったことがある。
ノックは3本しかできなくても、闘志は萎えず。
大阪桐蔭との激闘を終え、報道陣に「意地を見せましたね」と話しかけられると、悔しさを押し殺すように言った。
「勝たんかったら意地じゃない。勝たんかったら……。負けたら、ええ試合じゃないですから。(負けたら)智弁和歌山の名が廃ると思ってやったんですけどね」
高嶋は、今年で71歳になった。血液の病気にかかり、今は3本ほど本気でノックをしただけで息が上がってしまうという。しかし、まだファイティングポーズは崩さない。
「(大阪桐蔭を)叩くまで、やめれんでしょう」
大阪桐蔭を指揮する47歳の西谷浩一は、敬意を込めて言う。
「試合中、高嶋さんの圧力は、ずっと感じていました。何の差もなかったと思いますよ。0.001ミリくらい、うちの方が粘り強かっただけだと思います」
一部では、智弁和歌山の時代は終わったとの声もある。だが、智弁和歌山は、まだ死んでいない。