ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
丸山茂樹の元キャディが名解説者に。
ジャンボに言われた「仕事を取るな」。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2017/06/29 07:30
松山に話を聞く杉澤。取材対象者が自然と笑顔になるのもキャディ出身の“杉ちゃん”ならではだ。
ジャンボ尾崎「お前、仕事を取るな」。
実際、杉澤の解説がまず評判を博したのはプロゴルファーの間でだった。ジャンボ尾崎から「お前、プロゴルファーの仕事を取るんじゃないよ」と釘を刺されたことは、むしろ勲章だった。
ちなみに海外にも似た境遇にいるキャディはいる。過去にメジャー6勝のニック・ファルドとコンビを組んだスウェーデンの女性キャディ、ファニー・スネソンは、第2のキャリアでコーチ業に専念。今ではスウェーデンのテレビ中継でコメンテーターを務めることもある。
瞬時に変わるゴルファーの心理や行動。そういった目に見えないものを推し量り、伝える。「でも……そういうのを教えてくれたのは全部、丸山さんなんですよ」と杉澤は言う。
米国転戦中、オフの週はロサンゼルスの丸山の自宅で過ごした。酒を飲まないコンビが寝食以外にやることと言えば、練習か、試合をテレビで眺めるか。丸山はその度に画面越しのプレーを解説してくれた。
「このショートパット、カップ左に外すぞ」
次の瞬間、つぶやき通りの光景が起こるたびに杉澤は「なんで分かったんですか」と目を見開いた。
「前のホール、同じラインでプッシュアウト(右打者が狙いより右に押し出すミス)してただろう。次は絶対にボールを“捕まえにいく”んだから。ゴルフって、そんなもんだ」
丸山の説明から学び取った“ゴルファーあるある”。
丸山の説明はいつも丁寧だった。
丸山が活躍したのはタイガー・ウッズの全盛期でもあった。当時のラウンド中、ふたりの間にはある決まりがあった。ショットに入る直前、杉澤は絶対に「状況伝達の順番」を変えてはいけなかった。項目にすると、以下の4点だ。
(1)グリーンエッジまでの距離(2)ピンまでの距離(3)風の向き(4)その他の状況
例えば「エッジまでは150yd、ピンまで165yd、風は左から、右のバンカーは入れると難しいです」と言った具合である。
「丸山さんには流れを乱すなと言われてきた。ルーティンを崩した時に変化が起きて集中力が途切れる、と」
パワーで劣る丸山が、ウッズをはじめとした屈強な外国人選手を相手に生き抜いたのは、魔法のようなチップショットはもとより、ボールを打つ前の綿密な作業があってこそだった。その作業を今、杉澤はボスではなく視聴者に伝えている。
「僕には丸山さんの『そんなもんだから』というフレーズがすごく頭に残っていて。そういう“ゴルファーあるある”みたいのを話せればいいのかなと思うんです」