ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
丸山茂樹の元キャディが名解説者に。
ジャンボに言われた「仕事を取るな」。
posted2017/06/29 07:30
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Yoichi Katsuragawa
プロ野球のテレビ解説は元野球選手が務めるものだろうし、サッカーだって、相撲だって、その仕事には第一線を退いたアスリートが就くことは共通しているはずだ。
しかしゴルフの世界では例外がある。共通点が「ロープの中を歩いた人」というだけのケースがある。選手ではなくキャディ出身のコメンテーターがいるのだ。
杉澤伸章(敬称略)は、愛知県生まれで、今年の7月5日で42歳を迎える。日本のゴルフ中継でマイクを握る彼は、かつて米国で丸山茂樹のバッグを担ぎ、その後、宮里優作とコンビを組んだ一介のキャディである。
杉澤は現在、主に米男子ツアーでの現地レポーターを担当し“杉ちゃん”の愛称で親しまれている。そもそも、ゴルファーを差し置いてキャディがいかにして解説業に携わることになったのか。
そこには、最高峰の舞台で揉まれた矜持があった。
横田真一に拾われ、丸山茂樹と出会ったのが転機に。
野球少年だった杉澤がゴルフの世界に飛び込んだのは、高校卒業後。ゴルフ専門学校を経て研修生として腕を磨いた後、実力に限界を感じ、志半ばでその道を断念。だが'97年、所属していた静岡県内のゴルフ場でプロだった横田真一に拾われ、専属キャディを務めることになった。
横田と2年、横尾要と1年コンビを組み、'01年には週替わりで13人のバッグを担いだ。倉本昌弘、川岸良兼ら当時シード権争いに必死になる選手を選んでいた。「一流になるための勉強をしたくて。でもね、案の定ボロボロ、大赤字でした」。キャディの給料は選手の賞金から支払われるが、生活はギリギリだった。ワンボックスカーで全国を奔走し、ゴルフ場、高速道路のサービスエリア、空港、コンビニの駐車場が寝床だった。
転機はそのシーズンの終わりにやってきた。同年米ツアーで初優勝した丸山が、年末の日本ツアー最終戦に出場することになり、杉澤は依頼を受けた。
「一回担げたら、一生の思い出だ!」と心を躍らせ4日間を戦った。