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丸山茂樹の元キャディが名解説者に。
ジャンボに言われた「仕事を取るな」。 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byYoichi Katsuragawa

posted2017/06/29 07:30

丸山茂樹の元キャディが名解説者に。ジャンボに言われた「仕事を取るな」。<Number Web> photograph by Yoichi Katsuragawa

松山に話を聞く杉澤。取材対象者が自然と笑顔になるのもキャディ出身の“杉ちゃん”ならではだ。

選手が苦しむのを「ダメ」の一言で片づけないで!

 だが、その「一生の思い出」は予期せぬ方に転じた。翌年以降も丸山から大役を任され、仕事場は米ツアーに移った。米撤退後の'09年には日本ツアーでの優勝も見届けた。

 その杉澤がレポーター業を兼務するようになったのは、'08年の初めのこと。

 CS放送の米ツアー中継の解説者として白羽の矢が立ったのだ。そもそも男子ゴルフでは引退する選手が少なく、制作側も定期的に出演できる有能な人材を確保するのは難しい。杉澤は選手ではないとはいえ、長年の経験があった。コースの知識は豊富で、米国でプレーしたことがない選手に比べれば、どちらが鮮度の良い情報を届けられるかは明らかだった。

 丸山よりも一足先に帰国し、解説のオファーを受けた当時、杉澤は日本のゴルフ中継の解説に違和感を覚えていたという。

「『1mのパットを外してはダメですね』。このような言葉が気になったんです」

 ゴルフは、同じ条件でショットを打つことは極めて稀である。距離は同じ1mのパットでも、状況次第で難度が変わる。「選手が苦しむのを『ダメ』の一言で片づけられているような気がして。米国には日本では考えられないような難しさがある。その厳しさが伝わっていないんじゃないかと思ったら、丸山さんが可哀そうになって……」

ゴルフの大半は、次の一打に考えを巡らせる時間。

 杉澤は「僕はボールの行方を追うのではなく、ボールの動きがないところの説明をしようと思った」のだという。18ホールで4時間以上かかるゴルフのプレーの大半は、次の一打に考えを巡らせる時間である。選手が置かれた状況を把握し、それに応じた選択肢を言葉にすることを心掛ける。キャディ業に役立てようと、メンタルトレーナーの資格を取得したことも奏功した。

「例えば、ピンから10mの距離についたショットがあったとします。優勝を争う選手にとってそれは良いショットにならないけれど、そこから2パットでギリギリ予選通過を果たすために打ったショットであれば、素晴らしい一打になる。選手個々に、その一打に至るノンフィクションのストーリーがあるはずなんです」

【次ページ】 ジャンボ尾崎「お前、仕事を取るな」。

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