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先発の未練を捨てセットアッパーに。
岩嵜翔が10年目で得た「ベスト」。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2017/06/21 11:00
150km前後のストレートと鋭く落ちるフォークが武器。市立船橋高では高3夏の甲子園に出場した経験を持つ。
6回終了時点でリードすれば31戦全勝という強さ。
16日、ホークスは東京から新幹線で約4時間をかけて移動し、そのままマツダスタジアムでナイターに臨んだ。厳しいコンディションに違いなかった。それでも、岩嵜は2点リードの8回のマウンドに送られた。
ヤマ場は前の打席まで3打席連続本塁打を放っていた丸佳浩との対戦だった。とてつもない大歓声に包まれた敵地の球場。しかし、岩嵜はマウンドで仁王立ちした。3球目、151キロを内角に投げ込み、1ボール2ストライクと追い込んだ。4球目、勝負球はフォークボール。見事に空振り三振に仕留めると、真っ赤なスタンドの反撃ムードをそこで潰えさせた。
17日には3連投で8回から登板。この日は丸に返り討ちにされるホームランを浴びて負け投手になった。しかし、この1試合だけで信頼が揺らぐことはない。今季ここまでチーム67試合のうち半分近い33試合に登板。失点したのはこれがまだ4試合目で、防御率1.31は文句のつけどころがない。
岩嵜がいて、最後の砦には守護神サファテがいる。鉄壁のリリーフ陣こそがホークスの絶対的強みだ。今シーズン、6回終了時点でリードをしていれば31戦全勝というデータがそれを証明する。
能力の高さは誰もが認めるが、器用貧乏だった。
気づけばドラフト1位で入団した岩嵜も、もう10年目の選手になった。
入団当初から150km級の快速球を投げ込む本格派だった。すらりとした長身で見た目もよく、大エースへの成長を大いに期待された。岩嵜もまたその自覚十分で、プロ初勝利のお立ち台では涙ながらに「いつかホークスのエースに」と発言してファンの心をまた大きく揺さぶった。
能力の高さは誰もが認めるところ。しかし、若手時代は体力のなさから先発で結果を残せずにリリーフで活路を見出された。そして先発の谷間では必ず重宝されるなど、どちらの働き場所でも一定以上の結果は残してきた。ただそれは、器用貧乏とも言えた。
昨年も先発と中継ぎの“二刀流”を務めた。先発では自身5年ぶりの完封勝利も果たしている。しかし、岩嵜の中で1つの決意が固まりつつあった。