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川崎・篠山竜青に涙を流させたもの。
Bリーグの成功を象徴する男の1年間。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byKyodo News
posted2017/06/08 07:30
篠山竜青は、昨年まで決して得点の多いタイプのPGではなかった。1年で見違えた彼の成長は、数あるBリーグ効果の1つであろう。
川崎のファンの前に立つと、目から涙が……。
ファイナルが終わり、栃木の優勝セレモニーをじっと見つめていた篠山は、コートを去る前にファンへ挨拶をしにいったとき、自分の中に堪えきれないものがあることにようやく気がついた。
「あれが無観客試合だったら、絶対に泣いていないです。会場にいた1万人、全員が栃木のファンだったとしても、絶対に泣いていないです。でも、挨拶をしにいったときファンの人たちの声が……」
あのとき、何を感じていたのか。
「ゲームに負けた悔しさよりも、ファンの人たちを勝たせてあげられなかったこと、負けたにもかかわらず拍手してくれていることを感じて、もう……堪えきれなかったですね」
昨シーズンまでは東芝のバスケットボール部員の1人だった篠山は、栃木の選手たちをみて、うらやましく思うことが何度もあったという。
「NBLの時代から、もっとみんなに知ってもらいたい、多くの観客に来てもらいたいという気持ちはずっとあって。でも、Bリーグが出来る前は企業の部活動という形だったので、そういう活動をチームとして積極的に行えませんでした」
だから、ファイナルで敗れた今はこう考えている。
「ほんと、今はまだファンの数の差は仕方がないと思うんですよね、栃木さんは10年間地元密着で頑張っているクラブだけど、僕たちはチーム名に川崎と付いてから1年目なので。
ただ、選手たちにとって、この経験は成長のための栄養にはなったんじゃないかなと思います。ちょっとしたところの甘さの部分で負けたというのは、僕らのなかで大きなこととして残っているので。だからこそ、僕らは強くなれると思います」
ユニフォームの左胸に輝く、3本線のロゴ。
これまでの川崎は、ファジーカスや辻が攻撃でチームを引っ張ってきた。今ではリーグで1試合当たりの平均得点が最も多いチームとなった。そして、その進化の過程には、篠山の成長が密接に結びついている。
ブレイブサンダースは、今季から川崎市をホームタウンにした。ユニフォームの左胸には、川崎市が作成したロゴのワッペンがつけられるようになった。赤、緑、青の三色が「川」の字のように並んでいる。
ファジーカス、辻、篠山――。
簡単には折れない3本の矢のような、川崎ブレイブサンダースの新たなスタイルを象徴するようなワッペンである。