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呂比須新監督の“フライパン革命”。
新潟を4日間で変えた異例の手法。
text by
大中祐二Yuji Onaka
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/05/26 07:30
ブラジルで何年にもわたって監督を務めていた呂比須ワグナー。彼がこんなにも“ソフトな監督”になると誰が予想しただろう。
ミーティングルームから響くフライパンの音。
札幌戦の翌日、トレーニングはミーティングから始まった。ほどなくして、クラブハウス2階のミーティングルームから、1階でメディアが待機している部屋にまで、割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてくる。それも、何度も何度も。
そのうち打楽器を叩くような音も混ざってきた。
札幌戦を映像で振り返るというのが、ミーティングの内容だった。
「良かったシーン、もっと頑張ろうというシーンを見ましょう。良いシーンは、みんなで拍手しましょう」
呂比須監督の呼びかけに、誰かが持ち込んだフライパンもカンカンと打ち鳴らされた。
誰もが待っていた勝利の翌日。日曜日とあって、いつも以上にたくさんのサポーターがトレーニングを見学に訪れていた。その中には前日、ビッグスワンに入るチームバスを出迎えた2000人のうちの1人だったサポーターもいたはずだ。あのとき、チャントを歌いながらチームを後押しするサポーターを目の当たりにして、バスに乗っていた呂比須監督は選手たちに語り掛けた。
「音楽を聴くためにヘッドフォンをしている人は、外してください。そしてサポーターの歌を聞いて、彼らと目を合わせてください」
チームを動かすエネルギーは、リスペクトの心。
大騒ぎのミーティングが終わって、選手やスタッフがトレーニングピッチに姿を現した。最後に呂比須監督が登場すると、見学するサポーターから大きな拍手が沸き上がった。
札幌に勝利したチームは、最下位から順位を1つ上げた。シーズンはまだ3分の2を残し、劇的に状況が好転したわけでもない。進むべき道の険しさは、選手、スタッフ、サポーターの誰もが理解している。
それでも、決して大げさではなく、地球の裏側からやって来たブラジルと日本の国籍を持つ新監督は、新潟のサッカー文化を変えつつあるように思われる。
今、チームのエンジンを動かすエネルギーは、リスペクトの心だ。