ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹は誰からもショットを学ぶ。
12歳年上の苦労人に尋ねたこと。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2017/05/21 09:00
子供のファンとともに写真に収まるマクガート(中央)と松山。米国人ゴルファーにも松山の探究心は認められるところだ。
“午前8時半から”の強引な誘いを断れなくなったが。
「ウェッジのリーディングエッジ(フェースの一番下の刃の部分)からボールをさばこうとするのではなく、バウンス(フェースの裏の出っ張った部分)をうまく滑らせる体の使い方をするように、とアドバイスしたんだ」とマクガートはコツを語っていた。トッププロの高度な技術論はさておき、身ぶり手振りを交えたレッスンは続いた。クラブの動かし方、上半身、下半身の動作を惜しげもなく伝授していた。
ついには「練習場だけじゃなくコースでも試すといい。あした一緒に練習ラウンドをしよう」とマクガードが誘い、こう続けた。
「エイト・サーティ、バックナイン」(午前8時半からインコースで)
「エイト・サーティ……!?」と一瞬ひるんだ松山は、強引な誘いを断りきれないまま、翌水曜日の朝に予定外の早起きを強いられることになった。
結論を言えば、松山が指導を受けた打ち方をすぐに習得したとは言い難い。
「今後? うーん、できるかなあ。参考にできるところはありますけど……。試合では使えません」と話し、「そんなに簡単だったら、ゴルフは苦労しない!」と口をすぼめた。PGAツアーの選手が子供のころから蓄積してきた技だ。そう易々と自分のものにできるわけもない。
「何かを吸収しようとするのは素晴らしいことだ」
ただ、そんな25歳の姿勢にうなずいたのは、他ならぬマクガートだった。
2日間のレッスンを終えた彼は「ヒデキの賞金からいくらかは、もらうつもり」と笑った後、「彼はすごく謙虚な人間だ。人の話を聞く耳を持っている」と、薄く色づいたサングラス越しに真剣な眼差しを浮かべた。
25歳で米ツアー4勝、うち世界選手権1勝の実績からすれば、松山の方が格上であることは疑いようがない。それでも弱点を克服すべく素直に教えを乞う態度には、なんら変化がないのだろう。
「恥ずかしがったり、恐れたりすることなく、何かを吸収しようとするのは素晴らしいことだと思う。その姿勢がヒデキの周り、スタッフも同じであることも良いところだ。将来性を皆が認めているのは、そういう部分もあると思う。だから僕も(松山の)通訳と電話番号を交換したんだ。『いつでも連絡して来い』って」