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「指示待ちが日本ラグビーの現状」
田中史朗、指揮官とともに改革を。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2017/05/06 07:00
高い精度と正確な判断でパス回しの起点となる田中。ジェイミー・ジャパンの司令塔、そしてリーダー役としてもチームを引っ張る。
「指示待ちが日本ラグビーの現状です」
ウェールズ戦ではその戦術が功を奏し、前半37分に相手BKのパスが乱れたところを山田章仁が素早く拾い上げ、60mの独走トライが生まれた。このシステムはハイランダーズと同様で、田中はチームミーティングで防御システムの発想、約束事をプレゼンテーションしたのである。
「分かりやすく説明するのは、なかなか難しいと思いました。すべてを分かっていないとダメですね。ハイランダーズのリーダーたちはシステムも理解した上で、きっと、伝え方も工夫してミーティングに臨んでいたんだと気づきました」
ジェイミー・ジャパンで必要なのは、選手個人の理解力と表現力だと田中はいう。
「『指示待ち』が日本ラグビーの現状です。もし指示されていない状況に陥ったら、誰も対応できなくなる。選手たちが自分で考え、理解力を高めていけるのがこのシステムのいいところです。ただし、疑問に思ったことは伝えないとダメです」
今回の遠征中、コーチ陣のゲームプランに疑問を持った選手たちが何人かいた。しかし、何人かは言い出せなかった。「ジェイミーの見た目が怖いのが影響しているのかもしれません」と田中は感じているが、結局、田中が間に入ったことで、選手たちの疑問も氷解した。
「日本人は言わないんですよね。堀江(翔太)や外国出身の選手たち、今回は参加してませんが小野晃征や僕は、海外の感覚があるから意見をコーチ陣にぶつけられるんです。ジェイミーは意見が上がってくるのを歓迎するだろうし、チャレンジしてミスするのなら、ぜんぜん怒りませんから」
指揮官とコーチの最大の理解者となるために。
ジェイミーとブラウンのふたりが志向しているラグビーとは、どんなものだろうか。田中はいう。
「スマートなラグビーです。エディーはボールポゼッションを重視しましたが、今はキックでテリトリーを稼ぐ。うまく運べれば、FWにも優しい戦略になります。だからその分、僕とかSO田村(優)、FB松島(幸太朗)にはもっともっとキックの精度が求められてますけどね。そしてチャンスと見れば、全員の意識を統一して攻める」
判断の余地が大きく、選手個人にかかる責任が大きいシステムだという。誰かひとりがサボったり、システムの理解が不十分だと、一気に崩壊してしまう危険性もある。
「同じアプローチでスーパーラグビーでは優勝したわけです。ひょっとしたら、ジェイミーとブラウニーは日本の選手のラグビー知識、理解力が不足していることに、今はストレスを感じているかもしれません」